関宿(せきやど)河岸(かし)高瀬(たかせ)(ぶね)伊佐(いざ)(まる)()

(ごう)」から、何者かによって

持出された1万両もの大金。

 

 

大甕(おおがめ)の重さを別にしても。

小判1枚の重さは、5(もんめ)弱。

1万両だと5(180)(Kg)

 

肩に(かつ)ぐなら、

20人を要する。

 

 

陸路(りくろ)で重い荷物を運ぶのに、

便利なのが「大八車(だいはちぐるま)」。

 

 

一台で八人分(はちにんぶん)の運搬が可能

とか。

 

大工(だいく)八五郎(はちごろう)が作ったから

とか。

 

大津(おおつ)の八町が発祥地(はっしょうち)だとか。

 

呼名の由来は、諸説あるが。

 

車台の大きさ「8(240)(cm)の」

が有力な説。

 

 

 

 

 

 

5千両入った大甕二つは、

一甕づつ、二台の大八車に

乗せられ。

関宿から陸路の流山(ながれやま)街道(かいどう)

日光(にっこう)街道(かいどう)を通り江戸へ。

 

(2時)(うし)(こく)に、

神田の(はた)()(みやこ)わすれ」に

運び込まれた。

 

 

 

そのころ。

平田(ひらた)(ぶね)一艘(いっそう)日本橋(にほんばし)行徳(ぎょうとく)

河岸(かし)に着いた。

 

大甕(おおがめ)二つが陸揚(りくあ)げ、検閲(けんえつ)

検閲に立ち会ったのは、

日本堤(にほんつつみ)番所(ばんしょ)の同心(にし)(んま)亜治(あじ)

 

(かめ)の中身は、なんじゃ」

 

と、()かれた双丸(ふたまる)

 

「はい、甕の中には。石臼(いしうす)

 甘皮(   あまかわ)まで()いた、上州(まぼ)(ろし)

 の()麦粉(ばこ)が入っています」

 

「私は、隅田(すみだま)饅頭(んじゅう)の店主で

 双丸と申します。蕎麦(そばまん)饅頭(じゅう)

 に使う蕎麦粉を仕入れて

 来ました」

 

と、答えた。

 

 

 

 

 

この時代、将軍徳川吉宗(よしむね)は。

疫病(えきびょう)凶作(きょうさく)による、

財政難からの脱出を図る

ために。

享保(きょうほう)改革(かいかく)」を断行中(だんこうちゅう)

 

改革の一つに、

「金銀の流出制限」がある。

 

つまり、

高額の貨幣「金貨・銀貨」の

移動は()法度(はっと)

 

このことが今回の、

上州の(たび)の背景にあった。

 

 

 

 

 

隠居らの働きで、

1万両もの大金を手にした

(はた)()女将(おかみ)おせん(・・・)」。

 

 

元来(がんらい)このお金は、

亡き(おっと)塩原(しおばら)()(すけ)のもの。

 

太助から、

おせん宛に届いた手紙には。

 

(やまい)で、この先は短い。

 私の隠し金を、生活に苦し

 む者に有意義に使っても

 らいたい。誰に配るかは、

 おせん(  ・・・)に任せる」

 

と、(したた)めてあった。

 

 

おせん(・・・)は、1万両を。

 

「誰に、どう使うか」

 

その全権(ぜんけん)を、

隠居に(たく)したのであつた。

 

 

 

 

 

長月(ながつき)(9月)

 

日本堤(にほんづつみ)番所(ばんしょ)の「御用(ごようち)提灯(ょうちん)

・饅頭屋の「看板(かんばん)(した)

吾妻(あずま)(ばし)(わき)長屋(ながや)の「木戸(きど)

 

の、

いずれにも「黄色い(ぬの)」が

()れ下がった。

 

 

その日の夜五つ(夜8時)

(かみなり)門前(もんまえ)蕎麦屋(そばや)の二階に。

(ひざ)(くら)八人(はちにん)(しゅ)()全員が集合。

 

 

「今夜は。持ち帰った

 幻の粉で打った、上州蕎麦

 を(しょく)すぞ」

 

と、隠居の(いわ)()

 

 

皆が食べ終わるのを、

見計(みはか)らい。

 

 

「1万両の配布を、おせん(・・・)

 から一任(いちにん)された。さて、

 どうするか。ご意見を」

 

と、隠居。

 

 

「塩原太助さんの遺言(ゆいごん)の。

 生活に苦しむ者の選択は

 難しい。判断は人によっ

 て、それぞれ違う」

 

と、双丸。

 

「俺の住む裏長屋(うらながや)は。誰もが

 貧乏人。全部で百両でも、

 皆が大喜びする」

 

と、(おか)(ぴき)きの(へい)()

 

「江戸の町には、()て犬や

 捨て猫が多い。このお金は

 犬猫(いぬねこ)にも」

 

と、すず(・・)

 

「亡くなった夕立(ゆうだち)(ねえ)さんの。

 お墓を建てて、頂けません

 でしょうか」

 

と、朝立。

 

「生まれ故郷の、京の都へ

 一度戻って。朝立の本当の

 親を探して上げたい」

 

と、昼立。

 

 

いつもなら真っ先に

意見を言う、()()が。

 

「8人で()けましょう」

 

と。

 

 

「それで、ご隠居の考えは」

 

と再び、双丸。

 

 

(みな)の考えは良く分かった。

 では、このように」

 

 

(つづく)

 

◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆

主な登場人(適宜掲載)。

 

(にし)(んま)(いわ)()。元・町同心。隠居探偵。

▶鰊真亜治(あじ)。息子。南町奉行所の町同心。

鈴屋(すずや)双丸(ふたまる)。岩志の友人。長屋の大家。

大岡(おおおか)越前(えちぜん)(のか)()(みな)(みま)()行所の町奉行。

(へい)()。岡っ引き。

徳川(とくがわ)吉宗(よしむね)。8代将軍。

▶すず。饅頭屋の看(本当)姉妹(は姉弟)の姉。

▶もも。饅頭屋の看(本当)姉妹(は姉弟)の妹(弟)。

(ひる)(だち)。元平尾宿の女郎。次女。

朝立(あさだち)。元谷中の女郎。三女。

▶おせん。元(おんな)博徒(ばくと)。旅籠の女将。

 

■本作は、フィクション。

 登場する地域・人物・組織等の

 名称・写真イラスト等、実在の

 ものと無関係。

 諸制度や時代考証などの齟齬、

 ご容赦。

 

■添削・校正なしで配信。誤字脱字

 ご容赦。

 

鰯の頭

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