ここまで、色々あったが。

 

()にも(かく)にも。

(ふた)(かめ)合わせて1万両(いちまんりょう)の小判

を、倉賀野(くらがの)宿(じゅく)河岸(かし)まで

運んだ。

 

 

ここからは。

(からす)(がわ)を皮切りに、

江戸まで水路(すいろ)(くだ)る船旅。

 

倉賀野(くらがの)河岸(かし)で最大の(ふな)問屋(どんや)

()()衛門(えもん)」が所有する大型

高瀬(たかせ)(ぶね)()()(まる)一号(いちごう)」に、

大甕(おおがめ)を積み込んだ。

 

伊佐丸一号」の大きさは、

敷長12尋1尺(22m)

横胴敷1丈3寸(3 m)

米俵(こめだわら)300石以上も積める。

 

 

 

 

 

「天候に(めぐ)まれれば、

 江戸まで4日ほど。

 人馬(   じんば)然程(さほど)変わらない」

 

 

(ちな)みに、(江戸)(から)らば。川を

 遡る(さかのぼ)ので、17日~20日

 を(よう)する」

 

と、(ひる)(だち)が言った。

 

 

隠居一行は、

「伊佐丸一号」(まる)ごと

 一隻(   いっせき)()()った。

 

 

船は順調に利根川(とねがわ)を下り。

江戸川(えどがわ)の分岐点の関宿(せきやど)河岸(かし)

へ、二日(ふつか)余りで到着。

 

ここ関宿は、

江戸の水運の要衝地(ようしょうち)

譜代(ふだい)大名(だいみょう)が関宿城の藩主(はんしゅ)

(にな)う、城下町。

 

 

 

 

 

隠居は、

倉賀野(くらがの)河岸(かし)での乗船(じょうせん)に際し。

船主(ふなぬし)の「()()衛門(えもん)」の(すす)めで、

用心棒(ようじんぼう)を三人雇入(やといい)れていた。

 

 

「この旅の、最後の大事な

 務(   つと)めをお願いしたい」

 

と、双丸に告げ。

 

双丸と用心棒を、

高瀬舟に残し下船(げせん)した。

 

 

五人の宿(やど)は、陸の(はた)()

流石(さすが)、譜代大名の城下町。

水運、商業、宿場の町として

活況(かっきょう)(てい)している。

 

町には、市場(いちば)(くら)が並び。

商家(しょうか)茶屋(ちゃや)(はた)()遊郭(ゆうかく)

そして賭場(とば)も多数。

 

 

双丸を除く、

五人は高級旅籠へ投宿(とうしゅく)

 

()()りまで、少しある。

女子(おなご)四人は、

宿の近くの()産屋(やげ)へ。

 

まるで、江戸の土産屋を

見ている様な品数。

水運を使って、集積(しゅうせき)したの

だろう。

 

驚いたことに。

往路(おうろ)(こう)(のす)宿(じゅく)で買いそびれ

た、「雛人形(ひなにんじょう)」が。

ここで、手に入ったのだ。

 

 

 

翌朝、(午前)(6時)つ。

隠居らが泊まる旅籠へ、

息を切らした双丸が飛び

込んで来て。

 

「河岸に停泊中の()()(まる)

 一号(   いちごう)に積んでいた一万両(いちまんりょう)

 が。大甕(だいがめ)ごと消えた」

 

と、

口から(あわ)()きながら

言った。

 

 

甕に大金が入っている、

ことを知っている者は。

六人以外にいないハズ。

 

()えて考えれば、

用心棒を雇う際、

船主の伊左衛門に。

 

大奥(おおおく)に納める大事な物」

 

と、話したが。

信頼できる船主(ゆえ)に、

考えにくい。

 

ならば、高瀬舟を襲ったのは

何者なのか。

 

 

双丸の(あわ)てぶりに比べると、

隠居も四人の女子も慌てて

いない。

 

 

(ひる)(だち)が、

 

「大甕が、どう消えたか

 話して」

 

と、

極めて冷静な声で

双丸に(たず)ねると。

 

船頭(せんどう)たちと、用心棒たち

 皆で夕餉(ゆうげ)(あと)。少し酒を

 飲んで寝た」

 

「用心棒たちは、交代で寝ず

 の番で大甕を見張ること

 になっていた。ところが、

 酒に薬でも入っていたの

 か明方(あけがた)まで全員が寝てし

 まった」

 

(あか)(つき)つに、船頭の一人が

 目を覚ました時には。既に

 甕二つが、消えていた」

 

 

すると昼立が、

隠居や他の者に向かって。

 

首尾(しゅび)よく()ったようね」

 

と、言ったのだ。

 

 

 

関宿(せきやど)河岸(かし)から、

(すみ)田川(だがわ)日本橋(にほんばし)行徳(ぎょうとく)河岸(かし)

行くには。

江戸川や荒川の支流を、

(たく)みに(つな)(わた)ることに。

それには、大型の高瀬舟

から小舟(こぶね)に乗り換えた方が

何かと便利。

 

 

 

下総(しもうさ)(のくに)にある「行徳(ぎょうとく)」と、

「日本()行徳(ょうとく)河岸(か し)」は、別物。

 

行徳は、下総国や上総(かずさの)(くに)

造られる「塩」の集積地。

 

行徳の船着場から日本橋の

河岸まで塩を運んだことか

ら、この名が。

(ちな)みの、行徳は下総国にある

天領(てんりょう)「幕府領」。

 

 

実は。

江戸の市中にある、

日本橋行徳河岸で荷揚(にあ)

すれば。

検閲(けんえつ)を受けることになる。

 

そこで、

隠居の岩志は。

倉賀野(くらがの)河岸(かし)の出航する際、

町奉行大岡(おおおか)越前(えちぜん)(のかみ)宛に。

 

「二日後。関宿河岸の伊左丸

 一号の()を、よろしく」

 

と、

書かれた(ふみ)早馬(はやうま)(たく)して

いた。

 

 

この筋書(すじがき)は、

江戸を発つ前に打合せ済み

だった。

 

 

(つづく)

 

◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆

主な登場人(適宜掲載)。

 

(にし)(んま)(いわ)()。元・町同心。隠居探偵。

▶鰊真亜治(あじ)。息子。南町奉行所の町同心。

鈴屋(すずや)双丸(ふたまる)。岩志の友人。長屋の大家。

大岡(おおおか)越前(えちぜん)(のか)()(みな)(みま)()行所の町奉行。

(へい)()。岡っ引き。

徳川(とくがわ)吉宗(よしむね)。8代将軍。

▶すず。饅頭屋の看(本当)姉妹(は姉弟)の姉。

▶もも。饅頭屋の看(本当)姉妹(は姉弟)の妹(弟)。

(ひる)(だち)。元平尾宿の女郎。次女。

朝立(あさだち)。元谷中の女郎。三女。

▶おせん。元(おんな)博徒(ばくと)。旅籠の女将。

 

■本作は、フィクション。

 登場する地域・人物・組織等の

 名称・写真イラスト等、実在の

 ものと無関係。

 諸制度や時代考証などの齟齬、

 ご容赦。

 

■添削・校正なしで配信。誤字脱字

 ご容赦。

 

鰯の頭

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