米沢藩(よねざわはん)上杉家(うえすぎけ)の江戸屋敷は。

上屋敷と下屋敷があるが、

中屋敷はない。

 

上屋敷は、江戸城の内堀(うちぼり)近く

桜田門(さくらだもん)の前に。

 

参勤(さんきん)交代(こうたい)で江戸に滞在中の

藩主や、妻子が居住するのが

上屋敷。

 

下屋敷の使用目的は、一つが

食料などの(くら)。もう一つは、

藩主家族の遊興(ゆうきょう)の場として

の別邸。

 

 

仕置人(しおきにん)()(ざくら)」の、

女子(おなご)四人は首尾(しゅび)よく。

本所(ほんじょ)松坂町(まつざかちょう)にある下屋敷の

女中になった。

 

上女中(かみじょちゅう)の、(ひる)(だち)朝立(あさだち)は。

接客が、主な仕事。

 

(しも)女中の、すず(・・)()()は。

炊事と洗濯と掃除が、仕事。

 

女中は他にも。

上下合わせて、拾人ほど。

 

問題の、放蕩(ほうとう)息子(むすこ)の名は。

「上杉壁景(かべかげ)」、御年(おんとし)20歳。

 

 

連日のように吉原(よしわら)通い。

吉原へ行かないときは。

屋敷の女中を部屋へ引っ

張り込んで、桃色(ももいろ)遊戯(ゆうぎ)

 

 

()(ざくら)」の四人にとって、

極めて危険な初仕事。

 

部屋に引っ張り込まれ、

()()めに()うかも知れない。

 

下手(へた)をすれば、

 

(さら)を持たされ、一刀(いっとう)(もと)()

 井戸(いど)の底に」

 

 

(なん)から、(のが)れるだけでは。

任務が()たせない、のだ。

 

(まし)してや、

腕力(わんりょく)で相手を(たた)きのめす

のが、任務ではない。

 

 

目的は、

 

「放蕩息子の悪行(あくぎょう)を、

 白日(  はくじつ)(もと)(さら)す」

 

ことにある。

 

四人は、ある秘策(ひさく)()った。

 

 

 

 

 

舞台(ぶたい)は、

屋敷の敷地に建つ「米蔵(こめぐら)」。

 

江戸の(ぼん)は、新盆だが。

幸い、羽後(うご)米沢藩の盆は

葉月(はづき)(8月)旧盆なのだ。

 

これから、奉公人(ほうこうにん)が。

(やぶ)()りで居なくなる。

 

 

その(かん)を狙い。

 

「秘桜」の(おとこ)(しゅう)四人は。

 

すず(・・)(ひそ)かに錠前(じょうまえ)(ハズ)して

()いた、裏門から侵入。

 

夜を(てっ)して米蔵(こめぐら)に、

ある仕掛けを(ほどこ)した。

 

 

 

 

 

 

(ぼん)中日(ちゅうにち)

吉原遊郭から、

朝帰りした「壁景(かべかげ)」を。

 

(ひる)(だち)朝立(あさだち)すず(・・)()()

の四人が。

 

言葉(たく)みに、

米蔵へ(さそ)い入れた。

 

 

「藪入りで、屋敷の中は空家(あきや)

 同然(どうぜん)。誰も(くら)には来ないわ」

 

「中は真っ暗。アタイらも

 (はだ)()なるから。若君(わかぎみ)も裸に

 なってね。(ふん)(どし)()いでね」

 

「蔵の中で、(おに)ごっこよ。

 (つか)まえたら、好きに出来る

 のよ。念のために目隠(めかく)しも、

 してね」

 

 

「なんか、面白(おもしろ)そう。こんな

 遊びができるなら、もっと

 早く吉原から帰れば良か

 った」

 

 

壁景(かべかげ)は、自ら全裸になり。

()(ぬぐ)いで、目隠しをした。

 

 

「鬼さん、こちら、

 手の()る方へ」

 

「鬼さん、こちら、

 手の鳴る方へ」

 

 

 

(ひる)(だち)が、

 

(やみ)をすり()け」

 

の、合言葉(あいことば)を発すると。

 

突然、

 

『ドド~ン』

 

と、

 

何かが、(くず)()ちる音。

 

 

若君(わかぎみ)様、大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。

 米俵(こめだわら)(くず)れただけです。

 早く、アタイらを(つか)まえて」

 

「鬼さん、こちら、

 手の鳴る方へ」

 

「鬼さん、こちら、

 手の鳴る方へ」

 

 

 

米蔵(こめぐら)は。

下屋敷の(おもて)(どお)り面して、

建っている。

通りに面した蔵の壁は、

見事に(くず)れ落ち。

 

 

蔵の中で。

 

全裸の男が、

目隠しをして、

(おど)っているのが、

丸見(まるみ)え。

 

 

表通りには、

沢山の見物人に混じって。

これまた、

大勢の矢立屋(やたてや)(瓦版)集まっ(の記者)

いた。

 

 

 

 

 

翌日の瓦版(かわらばん)は。

 

米沢藩(よねざわはん)馬鹿(ばか)息子(むすこ)

 

米蔵(こめぐら)裸踊(はだかおど)り』

 

見出(みだ)しが、(おど)った。

 

 

 

この一件が原因なのかは、

(さだ)かでは無いが。

 

()(ざま)ながら120万石も、

あった上杉家。

 

間もなくして、

50万石に。

さらに15万石に。

 

 

 

もも(・・)が、すず(・・)(ねえ)さんに。

 

「今回の件、呆気(あっけ)なく

 終わったね」

 

「もっと、面白(おもしろ)い事件

 ないのかなぁ」

 

と。

 

 

葉月(はづき)(8月)、すぐに。

次の仕事が、舞い込んだ。

 

 

(つづく)

 

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主な登場人物(適宜掲載)。

 

(にし)(んま)(いわ)()。元・町同心。隠居探偵。

▶鰊真亜治(あじ)。息子。南町奉行所の町同心。

鈴屋(すずや)双丸(ふたまる)。岩志の友人。長屋の大家。

大岡(おおおか)越前(えちぜん)(のか)()(みな)(みま)()行所の町奉行。

(へい)()。岡っ引き。

徳川(とくがわ)吉宗(よしむね)。8代将軍。

▶すず。饅頭屋の看(本当)姉妹(は姉弟)の姉。

▶もも。饅頭屋の看(本当)姉妹(は姉弟)の妹(弟)。

(ひる)(だち)。元平尾宿の女郎。次女。

朝立(あさだち)。元谷中の女郎。三女。

 

▶ウニ。岩志の家内。

 

■本作は、フィクション。

 登場する地域・人物・組等の名称・

 写真イラスト等は、実在のと無関係。

 諸制度や時代考証などの齟齬、

 ご容赦。

 

■添削・校正なしで配信。誤字脱字ご

 容赦。

 

鰯の頭

 

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