この日、ダイヤモンド・プリンセ
ス号は、横浜港・大桟橋に停泊し
ていた。
甲板を清掃していた乗組員が、
海面に俯せに浮かぶ死体を発見。
港湾を所轄する神奈川県警横浜
水上警察署に通報。
同署は、直ぐに所有する警備艇
で水死体を回収。
現場検証と遺体検視の状況から、
「20代後半の日本男性。死後
24時間以内。死因は溺死」
と判断。
水上警察署は溺死体を当面、
事故と事件の両面で対応する
ことに。
■
浜智之は、公安の鬼頭史郎から
呼び出された。
例の神田駅ガード下の焼鳥屋に
出向くと、俣阿野志隈も同席。
神田や新橋の、ガード下の客は
大方が宮仕え。
ビールか焼酎を片手に、
焼き鳥かおでんが定番。
話題の定番は、
上司の陰口と政治ネタ談議。
鬼頭と俣阿野の、この夜の談議は
ご多分に漏れず、こんなネタ。
日本初のIR統合型リゾートは、
2030年開業予定の大阪だが。
IRと同じ夢洲を会場とする
「大阪万博」の開催に、
不穏な気配が。
人工島の夢洲と大阪中心部を
結ぶルートは、トンネル1本と
橋が1本のみ。常に渋滞。
加えて、
昨今の人手不足や資材高騰。
国際情勢の不安定性などが、
パピリオン建設を大きく遅延さ
せている。
体裁だけは、IR(統合型リゾート)
の謳い文句ながら、所詮はカジノ。
「命や健康」をテーマに掲げる
大阪万博の理念とは矛盾。
大阪人の気質は、
「実利と本音」。
来年にも、
吉村君の鶴の一声で、
「両方とも中止」
も、あり得る。
されども、
万博中止は、国際問題。
規模を縮小しても、やるだろう。
その一方で、問題はIRの方。
大阪に次ぐ、有力な候補地の横浜
は、既にIR撤退を表明。
佐世保もお台場も幕張も然り。
ところが、今。
「山下埠頭が再浮上」
らしい。
その筋によれば、仕掛け人は。
「中国の巨大マフィア/黒中幇」
資金提供は、
「超がつく中国人富裕層」
更にその裏に、
「同国政府の中枢幹部」
が、実効支配しているらしい。
筋では、
「マフィア・富裕層・政府」
の関係を。
「黒のトライアングル/BTA」と
呼んでいる。
BTAは世界中が、
コロナ・パンデミックと騒いで
いる間に。
ヨーロッパの有名リゾート地や、
アフリカ大陸の秘境の幾つかを
既に手の中に。
我が日本の、北海道や沖縄の観光
地の土地やホテルの幾つかが、
表向きの名義は日本人なれど、
実態はBTAによって買収済み。
鬼頭と俣阿野の両氏の
「ガード下の赤提灯談議」
を聞きながら。
僧侶の智之は、
「BTAとは、言い得て妙」
と、感心した。
趣味の外車マニア仲間に、
以前こんな話を聞いて。
今は自分の法話に引用している
からだ。
引用話とは、
BTA(Boring&Trepanning
Association)。
要約すれば、硬い金属に深孔を施す
切削加工技術のこと。対剛性と出来映
え精度に優れている。
法話の中で、
「世の中には頑固な人もいる。そんな
人との関係は、相手の懐の奥まで入
ること。決してギスギスしないこと」
と、説いている。
そして、赤提灯の喧騒の中。
鬼頭から俣阿野と智之に、
新たなミッションが告げられた。
(つづく)
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■主な登場人物(適宜掲)
▶俣阿野志隈 私立探偵・極秘諜報員
▶浜まり ヤメ検弁護士・極秘諜報員
▶俣阿野京歌 志隈の妻・極秘諜員
▶白木唯 映像クリエイター・極秘報員
▶白木香織 ㈱MJ社長・唯の異母姉
▶浜智之 まりの夫・寺院の住職
▶深川舞 ㈱MJ・事業部長
▶鬼頭史郎 警視庁公安部・SMKY窓口
▶小谷薫 華道家・草月流師範
▶小谷光一 薫の夫・外資系金融会社役員
▶轟翔平 TV局サブプロデューサー
■本作は、フィクション作。
登場する地域・人物・組織等の名称び
写真イラスト等は現存のものと無関。
諸制度や時代考証などの齟齬は、ご容赦。
■添削・校正なしで配信。
誤字脱字の程、ご容赦。
鰯の頭
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