隣室の四人の密談は、20分程で
終了。
小谷薫と夫の光一が、先に部屋
を出た。
二人の会話から、そのまま松濤
の自宅へ戻るようだ。
残る二人は、10分後に個室を出
てEVへ。
後を追った智之に、バーテンダー
の「お連れ様は？」の声。
EVが10Fに停止したのを確認。
バーに戻り、
「相手の都合でキャンセル」
と言って、カードで清算。
ホテルの駐車場から、５分で自宅
に帰った。
■
智之は盗聴音声を無編集のまま
鬼頭へ転送した。
四人の会話から、知り得た情報は。
ボスの名前は「王浩宇」。
上海の中堅貿易会社/会長。
名古屋港に向けて出港する同社
の「大型冷蔵コンテナ」で、
生花と偽り大量の「大麻」を密輸。
コンテナは、中央卸売市場に向か
うが。途中、東名高速の某SAで
大麻だけを下ろし。そのまま太田
花卉市場へ。大麻は、都内某所に
運ばれる。
某SAは、海老名SA。
都内某所は、
渋谷区笹塚のPマンション。
ここに「薫の笹塚教室」がある。
■
智之がパソコンで、生花の輸出入
の資料を開くと。
財務省貿易統計に、
昨年度の花の輸出は91憶円。
対して輸入は527憶円。
輸入相手国の１位は、中国。
年々、増加傾向に。
花の需要の中で、
葬祭など仏花の殆どは中国産。
とあった。
最大の理由は、「加工費格差」。
我国の加工代はバカ高。
輸入した方が安いのだ。
食品と違い、花屋の店頭に並ぶ
生花に、「生産地表示」などナイ。
事の序に、
中国の「生花事情」の項目を
覗くと。
「生け花教室が急増」の見出し。
今、室内インテリアとして
「生け花/華道」がブームらしい。
中国富裕層による「盆栽の爆買い」
が以前あったが。
今は庶民の奥様、娘さんレベルで
「イケバナ、イケバナ」
の書込みが、SNSに氾濫。
■
ある夕方、
智之に鬼頭史郎から
「神田の焼き鳥屋で一杯」
の誘いが。
「今回の密談傍受の件、完璧」
「住職殿は、探偵の才あり。
小器用さに感服」
「生花コンテナでの大麻密輸の
件は、既に当局が動いている」
「当局は、小谷夫妻を暫く泳がせ
る方針。あの傍受会話から、
国内での流通にも関わりが大」
「盗聴アプリが、スマホから自動
消滅するまで、まだ二週間ある。
それまで引き続き、傍受を」
と、新たな指令が伝えられた。
小谷薫の通話頻度は、半端ない。
一通話の長さは短いが、教室での
指導や打合せや、電車での移動以
外は、常に誰かと通話している。
木魚を叩き読経しながら、
聞いてはいるが。
とてもじゃないが内容全てを、
しっかり聞くのは無理。
取敢えず、
通話録音を早送りでチェック。
ほぼ全てが、どうでもいい話。
手掛かりはゼロ。
「こんなぁ・地味なぁ・作業でぇ
なくう・もっとをアクティブな
ぁ・探偵をを・やぁりいたい」
と、お経のように呟いていると。
突然、
若い男の声が、イヤホンから聞こ
えて来た。
「薫、俺だよ。お前、LINEから
俺を削除しただろう」
「このまま別れるなら、関係を
旦那の光一にバラすぞ」
「ナニ言ってるの、手切れ金を
受取ったでしょう。今更ナニ」
「ハシタ金で、お終いとは虫が
好過ぎませんか」
「俺と別れるなら、ハッパの密売
のことサツに言っちゃうかも」
「俺がバラしたら、旦那の会社も
ヤバいのでは」
「チョット待って。もう一度、
話し合いましょう。明日、山下
埠頭
の駐車場。夜9時、赤の
レクサス」
「了解デ～ス。ハッパも忘れずに」
智之は、会話の全てを録音。
鬼頭へ転送した。
十数分後に、鬼頭からメールが。
「車内での二人の会話を傍受。
リアルタイムで転送」
「若い男を尾行。身元を確認し、
報告」
と、書かれていた。
「尾行、そして身元確認」
「いよいよ、本格的な探偵だ」
智之の胸は躍った。
（つづく）
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
■主な登場人物（適宜掲）
▶俣阿野志隈 私立探偵・極秘諜報員
▶浜まり ヤメ検弁護士・極秘諜報員
▶俣阿野京歌 志隈の妻・極秘諜員
▶白木唯 映像クリエイター・極秘報員
▶白木香織 ㈱MJ社長・唯の異母姉
▶浜智之 まりの夫・寺院の住職
▶深川舞 ㈱MJ・事業部長
▶鬼頭史郎 警視庁公安部・SMKY窓口
▶小谷薫 華道家・草月流師範
▶小谷光一 薫の夫・外資系金融会社役員
▶轟翔平 TV局サブプロデューサー
■本作は、フィクション作。
登場する地域・人物・組織等の名称び
写真イラスト等は現存のものと無関。
諸制度や時代考証などの齟齬は、ご容赦。
■添削・校正なしで配信。
誤字脱字の程、ご容赦。
鰯の頭
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆