生臭坊主を自認する、
高輪台の寺院の住職・浜智之。
精進料理を食するのは、
法要の席だけ。
普段は、肉も魚も。
特に、焼き肉が好き。
中でも、「牛タン」には目がない。
智之の趣味の一つが、グルメ。
グルメで得た知識を、ときおり
法話の余談で披瀝する。
「食に関する余談話」が、法要に
集まった人々の「眠気覚まし」に
なると、経験的に知っている。
この日は、「味覚器」に関する
蘊蓄を語った。
突然、法話を止め。
「皆さん、舌を出してください」
「ペロペロして」
と言い、話を続けた。
哺乳類の「舌」は、
どれも似ていますね。
概ね口の中で「クレクネ」と
動いて、食べ物の「味を確かめ」
食道へ運んでいきます。
人間は、体内に入る全ての味覚を
その舌で感じ取ります。
舌のどの部分が、どんな味を感じ
るか。皆さんは知っていますか。
と言って、袈裟の下からバナナを
一本取り出し。
一番若いと思われる女性に、
「ご自分で皮をむき、舌で舐めて」
と、促した。
普段なら、何でもない行為なのに。
大勢が見つめる中での、この仕草。
どこか、「艶かしい」。
それまで、本堂のあちこちで
頭がカックンしていたのが。
何故か、ピタリと止んでいた。
余談が続いた。
皆さんは、
「甘味、苦味、酸味、塩味」
どの味が一番、感じ取りますか?
すると意外に、答えがバラバラ。
住職は、ここで「したり顔」に。
「皆さんは、危機管理が足りない
ようです」
「毒物の多くは、苦いのです。
苦味を感じたら、直ぐに吐き出
さないと早死にしますよ」
と、笑った。
「皆さまの中に、愛猫家がいらっ
しゃると思いますが。残念なが
ら猫には、甘味が判りません」
「動物は進化の過程で、不要な
味覚受容体が退化します。現代
の猫は、甘味受容体Tas1R2/
Tas1R3の内、Tas1R2を遺
伝子から失っています。よって、
飼猫に甘いお菓子を上げても、
喜んでいませんから」
■
〈場面は再び探偵事務所に〉
「それで、住職殿。ご依頼の件、
調査しますか」
「調べる迄も無く、電話一本で
済むかも」
と、俣阿野が言った。
そして数分後には、グルメの会か
ら立ち去った「謎の女性」の正体
が判明。
やはり、深川舞だった。
そして、俣阿野が浜智之に。
「住職殿、そろそろ本当の目的
を話されては」
と、急かした。
俣阿野には。
浜智之が訪ねて来た理由が他に
あると、お見通しだった。
すると先ほどまでの、
グルメの会や法話の余談話をし
ていた時とは、打って変わって。
智之氏の顔が変わった。
そして、口から出たのは。
「私は、私立探偵になりたい」
だった。
( EPISODE Ⅷ 味覚器 おわり)
この続きは、
EPISODE Ⅸ 小器用
に引き継ぎます。
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■主な登場人物(適宜掲)
▶俣阿野志隈 私立探偵・極秘諜報
▶浜まり 弁護士・極秘諜報員
▶俣阿野京歌 志隈の妻・極秘諜員
▶白木唯 映像クリエイター・極秘報員
▶白石香織 旧姓白木香織・唯の異母妹
▶浜智之 まりの夫・寺の住職
▶深川舞 ㈱マーケティング日本・事業部長
▶周妮 元MJ上海首席・元ルポライター
▶宋露思 夏冬旅行社の派遣ガイド・IQ10
▶楊雪迎 唯の学友・元周妮の部下・IQ5
▶貝塚優 京歌の元カレ・雪迎と結
▶鬼頭史郎 警視庁公安部・SMKY窓口
■本作は、フィクション作。
登場する地域・人物・組織等の名称び
写真イラスト等は現存のものと無関。
諸制度や時代考証などの齟齬は、ご。
■添削・校正なしで信。
誤字脱字の程、ご容赦
鰯の頭
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