深川舞。
長身美女、30歳。
人材派遣会社「㈱MJ」の部長。
今、日本の観光業は。
中国の団体旅行解禁に合わせ、
コロナ禍前を超える空前の活況
が見込まれている。
観光客の急増で、最も深刻なのが
人手不足。
これまでは、ホテルや旅館など
宿泊施設への人材派遣が中心だ
った㈱MJだが。
より収益性の高い、現地ガイドの
派遣にシフトしつつある。
それを主導するのが、深川舞。
現地ガイドの条件の一つに、
外国語堪能が必須なのだが。
今や、「多言語同時翻訳アプリ」
で充分に対応可能。
旅行客が携帯するスマホに、
アプリをインストールするだけ。
ガイドが何語で話しても。
客のスマホからは、望む言語の
音声と文字が確認できる代物。
驚きは、この機能が「双向性」
なこと。
お客が自国語で話すと、
ガイドのスマホには、望む言語に
翻訳される。
実に便利な、世の中になった。
よって、
これから求められるスキルは、
多様な人々への対応能力。
現に、
団体ツアー客のアンケートには、
こんなデータが。
「今回の旅行で最も評価した
ことは」
の問いに。
「宿」「食事」「観光」などの
旅の主要素を超えて、堂々の
第一位は「現地ガイドの対応力」。
内容を精査すると、
「気配りと人柄」。
まさに、「人としての魅力」。
高額ツアーであればあるほど、
この傾向が高い。
■
深川舞が、
上海の派遣会社から引抜いた
ガイド50人は。
皆IQが125超え。
国内観光に必要な知識習得に、
然程の時間は要しない。
必要なのは、旅行客を満足させる
スキル。
トレーニング・カリキュラムに。
仏教寺院での「説法と座禅」を
組込んだ。
「優秀な人材ほど、マインドコン
トロールに弱い」
コントロールに最適な手段。
それが、
お寺の本堂での説法と座禅。
その任を任されたのが、
浜まりの夫、住職の智之氏。
普段は、剽軽な男なのだが。
本堂の静寂の中、
袈裟姿の無表情の僧侶からは。
不思議なオーラが漂う。
智之氏。
生まれは、真言宗の聖地・高野山
総本山「金剛峯寺」僧侶の五男。
都内の某仏教系大学を卒業。
四年前、真言宗派の都内港区高輪
台の寺院の一人娘と結婚。
まりより、2才上の34歳。
夫婦の間に、まだ子供はいない。
都心の喧騒が嘘のような高輪台
の一角に、その寺院がある。
智之の趣味は、多彩。
甲乙つけがたいのが、
「陶芸と外車」
広い境内には、
焼き窯を備える陶芸工房。
そして、大きなガレージ。
中に、外車が6台。
CLAシューティングブレーク、
ゲレンデヴァーゲン、アウディ
A4などが。
実は、もう一つの趣味が、
「自称グルメ」。
特に、「和食」への傾注。
仏教の戒律では、
魚や鳥や獣の肉は禁止食材。
更に、色欲や財欲など俗世欲は
慎むべき事柄。
これらを無視する輩を称して、
「生臭坊主」。
本来、「精進料理は植物性食材」
のみなのだが。
智之氏は、「魚も肉も」大好物。
さすれば、まさに生臭坊主。
本堂での説法で、雑談として紹介
した、「日本の味」が「味醂」。
(つづく)
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■主な登場人物(適宜掲載)
▶俣阿野志隈 私立探偵・極秘諜報員
▶浜まり 弁護士・極秘諜報員
▶俣阿野京歌 志隈の妻・極秘諜報員
▶白木唯 映像クリエイター・極秘諜報員
▶白石香織 旧姓白木香織・唯の異母姉妹
▶浜智之 まりの夫・寺の住職
▶深川舞 ㈱マーケティング日本・事業部長
▶周妮 元MJ上海首席・元ルポライター
▶宋露思 夏冬旅行社の派遣ガイド・IQ130
▶楊雪迎 唯の学友・元周妮の部下・IQ135
▶貝塚優 京歌の元カレ・雪迎と結婚
▶鬼頭史郎 警視庁公安部・SMKYの窓口
■本作は、フィクション作品。
登場する地域・人物・組織等の名称及び
写真イラスト等は現存のものと無関係。
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■添削・校正なしで配信。
誤字脱字の程、ご容赦。
鰯の頭
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