集まったメンバーで宗教や団体
のことを、それなりに知るのは
浜まりと夫の浜智之だけ。
成り行きで、まりが進行役に。
「結論を先に話すワ。
造値学会本部の会長室と、
幹部役員専用車2台。役員秘書
二人の計5ヶ所に、Bugを
仕込むことに」
「宗教団体や造値学会に関する、
余計な情報は無視。同学会の
組織は、今や数百万世帯以上
とも。海外にも2百万人以上の
信者数。組織も複雑膨大」
「任務のポイントは、次期会長
を巡る内紛事実の確証のみ。
5つのBugから有力情報を
得るだけ。後は公安の仕事」
「誰が、何処に誰に仕込むかを
決めましょう」
と、まりが話を切った。
続けて、俣阿野志隈が
「最難関の会長室は、M。
2台の車への仕込みは、カーマ
ニアの浜智之氏。男性秘書は、
K。女性秘書はY。手段は各人
の英知に期待」
「タイムリミットは、2週間後」
と、結んだ。
■
10人は楽に座れるアール・
デコ調のダイニングテーブル。
そこに、SMKYと鬼頭氏と
智之氏の6人が着席。
「今日のメインディッシュは。
智之氏の好物はカモ肉と、まり
さんから聞いていたので。
鴨のコンフィ。自慢はフルーツ
ソースよ」
「それと、唯さん。前菜はエスカ
ルゴよ。これも特製のガーリッ
クバターソースがポイントよ」
と、いつもにも増して自慢げな
京歌が、食前酒のシャンパンを
注いで廻った。
■
ここは、
「神宮外苑・森のビヤガーデン」。
造値学会本部がある信濃町駅に
ほど近い。
「都会の森で生ビールとBBQ」
がウリ。
若い女性が二人。
一人は白木唯。
あと一人は造値学会の幹部役員
の秘書。名前は大澤結菜。
二人が知り合ったのは、
僅か2日前のこと。
大澤結菜は大のヤクルトファン。
今日も勤め帰り、千日坂を通り
神宮球場へ急いでいた。
突然、後方から来たバイクが彼女
を突き飛ばし、走り去った。
倒れた彼女に、手を差し出し
介抱した女性が唯。
同年代の二人は、極めて自然に
近くのカフェで自己紹介。
結菜は。
映像クリエイターの唯の仕事に、
強い関心を示し。
唯は。
「良かったら近い内、森のビヤガ
ーデンへ一緒しませんか」
と誘った。
先日のミーティング後。唯には
大澤結菜に関するプロファイル
が、京歌から届いていた。
千日坂の出来事は、唯がボスに
頼んで仕組んだ自作自演。
俣阿野も見掛けに寄らず、ハード
ボイルドなところが。
森のビヤガーデンは、仕事帰りや
学生達で賑わっている。
二人が会うのは、まだ二度目。
プロ野球に疎い唯が、
「今シーズンのヤクルトは?」
と訊くと。
「最下位を、まっしぐらヨ」
「それより、映像制作の現場の
お話が聞きたいワ」
と、瞳を輝かせ。テーブルに
大ジョッキが運ばれると、二人は
直ぐに盛り上がった。
■
昼過ぎ、僧侶姿の浜智之が
「人気車ゲレンデヴァーゲン」
で、西新宿の外車ディーラーに
やって来た。
僧侶の萌黄の袈裟には、
「南無妙法蓮華経」の文字。
僧侶は、
「造値学会の役員専用車が、
買い替えの時期との噂を
耳にした。確か2台とも
CLAシューティングブレーク
のハズ。高値で買い取りたいの
で、御社が下取りする前に一度
拝見したいのだが」
と、営業マンに尋ねた。
虎ノ門レジデンスでのディナー
の翌日。
浜智之の元に、学会所有の役員
専用車に関する資料が京歌から
届いていた。
更に、品川の外車ディーラーから
「当店の上客の僧侶が、貴店を
訪ねるのでよろしく」
との連絡が入っていた。
正確には、浜の寺は真言宗。
お題目は、「南無大師遍照金剛」。
「南無妙法蓮華経」では無いが、
一般人には判らない。
(つづく)
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■主な登場人物(適宜掲載)
▶俣阿野志隈 私立探偵・極秘諜報員
▶浜まり 弁護士・極秘諜報員
▶俣阿野京歌 志隈の妻・極秘諜報員
▶白木唯 映像クリエイター・極秘諜報員
▶浜智之 まりの夫・寺の住職
▶大澤結菜 造値学会の役員秘書。
■本作は、フィクション作品。
登場する地域・人物・組織等の名称及び
写真イラスト等は現存のものと無関係。
諸制度や時代考証などの齟齬は、ご容赦。
■添削・校正なしでの配信。
誤字脱字の程、ご容赦。
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