(にし)真岩(んま い)(わし)

慶安4年(1651年)の生まれ。

(3代)家光の最後の年。

 

このころから、徳川幕府は。

名実ともに、安定。

以後、

家綱綱吉家宣家継。

そして今、(8代)軍は吉宗(よしむね)

 

岩志は、30代後半から

元禄(げんろく)文化の恩恵を謳歌(おうか)

 

身分は、御家人(ごけにん)ながら。

南町奉行所の町廻り(まちまわ  )同心(どうしん)を、

(70)()まで勤め上げ、引退した。

 

 

(将軍)宗公が南町奉行に抜擢

たのが、大岡(おおおか)越前(えちぜん)(のかみ)忠相(ただすけ)

 

その越前守が、絶大な信頼を

寄せていたのが、同心の岩志

(えら)ぶらず黙々(もくもく)と、

難事件を解決する岩志を。

直属の与力(よりき)達以上に、高く

評価していた

 

越前守と年長者の岩志は、

何故か馬が合った。

 

 

元来(がんらい)旗本が()く与力への

登用の道を用意したが。

岩志は、現場に固執(こしつ)

出世の門戸(もんこ)を辞退していた。

 

町同心を辞した今も。

二人は、密かに情報交換を

している。

その場所は、吉原遊郭内の

とある妓楼(ぎろう)

 

 

東海道五十三次

京に向かう、最初の宿場

品川宿

ここで、ある騒動

 

一人の山伏(やまぶし)()。大雨による

多摩川の船止め、でもないの

に。山で修行する僧侶。

何日も何日も。

かれこれ一月(ひとつき)近くも(はた)()

投宿している。

 

 

宿場で、こんな噂が

山伏の名は、天一坊(てんいちぼう)

生まれは、紀州(きしゅう)らしい。

近々、江戸城から使者が

迎えに来るらしい。

江戸屋敷に移り住むので、

内々に、仕官者を採用する

らしい」。

 

更に加えて、

山伏は、将軍吉宗公の

御落胤(ごらくいん)らしい」。

 

こんな噂が、(まこと)しやかに

 

 

噂は、大岡越前守の耳に。

直ぐに吉宗公に謁見(えっけん

御落胤の真偽(しんぎ)(たず)ねると。

 

さて、どうかな。いた(・・)かも(・・)

「紀州にいた頃は、夜な夜な

 遊び回っていたので

との、返答。

 

 

越前守は、岩志を呼んだ。

場所は、いつもの吉原遊郭。

総籬(そうまがき)の「十文(じゅうもん)字楼(じろう)」。

 

事が事だけに、大っぴらな

 捜査は出来ない。(にし)(んま)殿が

調べてくれぬか」。

と、話は一言で終わり。

あとは、いつものように・・・

 

 

 

ここ何年も、旅をしていない。

品川宿までなら、凡そ(10)()

老老ながら、健脚の岩志。

この度は、家内(かない)を伴っての旅。

(午前)(10)()に立てば、余裕で昼七(午後3時)

つに着くハズ。

品川宿に、精々(せいぜい)()(さん)(ぱく)の予定。

 

 

二人は、首尾よく。

天一坊と同じ宿に、投宿した。

 

宿の主人と女将(おかみ)を部屋に

呼び、小判1枚を握らせ。

町奉行の(めい)での内偵(ないてい)

を伝え、協力を要請。

 

主人の話では、持っ(天一坊)ていた

金子(きんす)は数日で無くなり。

今は宿代や飲食代が、ツケ

と言う。

 

 

この日も宿には。仕官の職を

求め、複数の浪人が集まって

いた。

 

岩志が、天一坊の隣室で聞き

耳を立てると、中から。

お主、どの程度の知行(ちぎょう)(とり)

 (ほっ)するのじゃ。なにしろ(わし)

は、(将軍)宗公の御落胤(ごらくいん)。高額

で召し(かか)えるぞ

の声が、聴こえて来た。

 

この一言を聞くや否や

岩志は自室へ戻った。

うに(・・)よ、どうやら品川泊ま

りは。一泊だけになってし

もうた。残念だが

御落胤を名乗る男は、詐欺

師。偽者じゃ

 

えっ。もう解かってしまっ

 たのですか?

と、うに(・・)は驚いた。

 

 

天一坊の話で、本当のこと

 は紀州生まれくらい。

他は全部、ウソだろうよ

 

お前も知っての如く。

武士の俸禄(ほうろく)は、身分により

三種類。知行(ちぎょう)(とり)(くら)(まい)(とり)

給金(きゅうきん)(とり)

大名や旗本が知行取。御家

人が蔵米取。浪人が仕官し

ても、給金取

こんな事も知らない、御落

胤などありえない

 

 

そもそも、この時代。

武士階級は、体面(たいめん)を重んじた

少なくとも、大名家や旗本家

なら。側室(妾)は勿論、遊

女の間に出来た「隠し子」で

あっても、母子ともに手厚く

養育が保障されていたのだ。

 

 

せっかく来たのだからと。

鰊真夫妻、もう一泊だけして。

名物品川あなご飯」を食

べて、吾妻橋の長屋へ戻った。

 

岩志から、報告を受けた

越前守

天一坊を逮捕、死罪に

仕官に応募した、浪人たちに

島流しを命じた。

 

 

話「真偽(しんぎ)」おわり。

 

お話のソノサキは

みなさまの

妄想に

お任せです

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世に

それほど知られて

いない

江戸時代の事件簿

 

史実的に極めて怪しい

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隠居探偵鰊真岩志

解き明かす

妄想時代小説

 

ほぼ原形を留めることなく

改竄されているため

元ネタは何か?

不明のハズ

 

一話完結型・全10

 

 

■主な登場人物(適宜掲載)。

 

鰊真岩志。元・町同心。隠居探偵。

鰊真亜治。息子。南町奉行所の町同心。

鰊真うに。奥方。趣味は太極拳。

大岡越前守忠相。南町奉行。

徳川吉宗。8代将軍。

 

■本作品は、フィクション作品

登場する、地域・人物・組織等の名称及び

写真・イラスト等は。現存のものと無関。

言語、時代考証の齟齬は、ご容赦を。

 

■添削・校正なしでの配信につき、誤字脱字

の程ご容赦を。

 

〈鰯の頭〉

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