一介(いっかい)の女芸人「傀儡女(くぐつめ)」。

何故、そこまで手厚い保護を

受けられたのか。

 

 

人形座・殴打殺人」の捜査。

犯人の逮捕どころか、その影

すら判明していない。

 

ネタが無いので、瓦版は。

こんな、憶測記事を掲載

 

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見出しには、

傀儡女(くぐつめ)何処(どこ)

 

浅草猿若町「人形座」での

作家悪遊(あくゆう)、殴打殺人事件

(いま)だ解決の見通しが立って

いない。

南町奉行所の見立ては、同事

件は「誤認殺人」。即ち本来

太夫を狙った犯行であった

が。機を(あせ)った為、別人を殴

打。殺害に至ったとの見解。

 

傀儡女(くぐつめ)紀乃姫(きのひめ)太夫(だゆう)」の贔屓(ひいき)

の多くが、「太夫の安全」を

求める嘆願書を持って町奉

行所へ押し掛ける事態に。

また目安箱(めやすばこ)に、多くの投書が

寄せられていた。

 

紀乃姫太夫」は、町奉行・

大岡(おおおか)越前(えちぜん)(のか)()命で、江戸市中

の何処かに(かくま)われた模様。

その所在は、明らかにされて

いない。

 

町方(町奉行所)の対応は、一見これら民

衆の要望で動いたように見

えるが。

当瓦版が得た、確度の高い

情報(じょうほう)(すじ)」によれば。

 

将軍吉宗公が、弥生(やよい)(3月)旬に

一座を江戸城に招き

人形浄瑠璃の「御前(ごぜん)公演」を

()り行なう運びが判明。

将軍の意を忖度(そんたく)した大岡越

前守の動きと。

当瓦版はみている。

 

果たして、紀乃姫太夫の宿舎

は何処なのか。安全な場所と

は。まさか、江戸城内?

 

これが瓦版の内容。

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瓦版にあるように、

紀乃姫太夫」の居場所は、

特定されておらず。

まさか、

吉原遊郭(ゆうかく)総籬(そうまが)()高級妓楼(ぎろう)

大文字(だいもんじ)(ろう)」の離れ屋とは。

 

 

八代(徳川吉宗)将軍と、南町(大岡越前)奉行()との関

係は。以後に注釈するとし。

(大岡)前守と、(にしん)真岩(まいわ)()の関係

()れておく。

 

大岡が江戸城下の土木(どぼく)上水(じょうすい)

を管理する「普請(ふしん)奉行(ぶぎょう)」から、

南町奉行へ移って以来の、

付き合い。

古参ながら、威張り(いばり)(くさ)ること

なく。黙々と務めを(こな)す姿に、

大岡が一目(いちもく)()いたのだった。

 

南町奉行所には、同心が百人。

与力が二十五人。同心は与力

(部下)下なのだが。

いつからか、二人の関係は。

与力を飛び越え、

(ちょく)で話せる間柄」になっ

ていた。

 

大岡は、岩志を何度か「与力

に引き上げようとしたが、

当人が辞退した。

理由は、(わし)は現場が好きだ。

庶民との関わりが好き。与力

(しょう)に合わない」だった。

 

 

()行所の中で、与力は御家人

()ける最高職。

それを断ってまで、「現場

(こだわ)る岩志に。

大岡は、与力以上の信頼を

寄せ。

事ある(たび)に二人は、奉行所外

で会っていた。

その密談の場所が、吉原遊郭

大文字楼(だいもんじろう)」。

 

 

紀乃姫太夫の身を心配し。

宿の移動を大岡に進言した

のは、言わずもがな岩志なの

であった。

 

殺害された悪遊が、紀乃姫太

夫に残した「遺作めいた言

」。これが、犯人逮捕への

唯一の手掛かり。

そう考えた岩志は、次の手を

打った。

 

 

 

隠居の身ながら岩志には

今でも僅かな金子(きんす)で働いて

くれる岡っ引きや、そのまた

先の「手先(てさき)」がいる。

 

手先を使って。

双丸(ふたまる)鈴屋(すずや)双丸(ふたまる)」のことは、

調査済み。

本人が言うように、

今は、両国橋の長屋暮らし

早くに離縁(りえん)(ひと)り者

歳は岩志より若く、大老(60代)

長屋の御意見番

 

気に入ったのは、その経歴。

 

前職は、「へそ饅頭」製造販

売店の番頭

 

中老(50代)で隠居以来、無類の芸能

役者(やくしゃ)好き。(のう)歌舞伎を始め

今は人形浄瑠璃にハマって

いる。

贔屓(ひいき)の芸人を追って、江戸の

芝居小屋は無論。

遠く上方(かみがた)まで出向いて行く。

所謂(いわゆる)追っかけ

 

 

 

気になる資産と収入は。

親から相続した、両国橋の

長屋一棟と、浅草橋の長屋一

。部屋数は、合計40世帯

分もある大家さん

 

江戸は、家賃が安いが

ざっくり計算すると、

一世帯4畳半2間で、

一月(ひとつき)の家賃、(21)(000)()

四十世帯で、(840)四百(000円)匁。

年収では、四千八百(10400000円)匁。

 

これだけの収入があれば、

大富豪では無いが、そこそこ

の金持ちと言っていい。

 

 

長屋の店子(たなこ)からの評判は、

無類のお人好し」。

加えて気に入ったのが、

正式な花火師では無いが。

若い頃から、両国の花火大会

を手伝っていて。火薬の扱い

に慣れていること。

 

 

なあ双丸さんよ。一つ頼み

があるのだが。大阪まで

行って来てくれないか

道頓堀の竹本座の近松門

左衛門に会って、この(ふみ)

渡し。返事を受け取って来

て欲しいのだが

 

なに(わし)が行ってもいいの

だが、近ごろ足が悪くて

長旅は無理

旅の費用くらいは、持って

いるのは知っているが。

全部こちらが持つ。無事に

戻った暁には、総籬(そうまがき)は無

理だが半籬(はんまがき)で、腰が抜け

るほど(ねぎら)いの席を設けて

やる。どうだ、行ってはく

れぬか

 

と、岩志は双丸にタタミ掛け

た。

案の定(あん じょう)お人好しの双丸

二つ返事で、引き受けた。

 

 

(つづく)

 

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■傀儡女:人形を操る女芸人

 

■主な登場人物(適宜掲載)。

鰊真岩志。元・町同心。隠居探偵。

鰊真亜治。息子。南町奉行所の町同心。

鰊真うに。奥方。趣味は太極拳。

紀乃姫太夫。傀儡女・人形浄瑠璃女芸人。

悪遊。上方の作家・作詞家。殺害死。

俵屋左衛門。人形座の小屋主。

鈴屋双丸。変顔の爺。長屋の御意見番。

大岡越前守。南町奉行。

 

■本作品は、フィクション作品

登場する、地域・人物・組織等の名称及び

写真・イラスト等は。現存のものと無関。

言語、時代考証の齟齬は、ご容赦を。

 

■添削・校正なしでの配信につき、誤字脱字

の程ご容赦を。

 

〈鰯の頭〉

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