盗聴録音の再生を。
まだ1/3も聞いていない。
既に、衝撃的な内容である。
「両親を失った、事故とは」
「彼らの秘密とは」
「離婚したハズの二人が。
何故、会っている」
何よりも、
「心配無用。あの男は、只の美女
好き」
この一言で、
俣阿野の頭に、血が上った。
再生を、再び開始。
二人の会話が、断片的に続いた。
「上海の拠点は、大丈夫か」
「勿論。腹心の舞が、シッカリと
コントール」
「ルポライターの女。人脈も広
いし、仕事が出来る。大いに
利用価値がある」
「何より、探偵とセフレ関係。
これも使える」
「もう直ぐ、IQ135の女が加わ
る予定。彼女、吉林省出身」
「彼女は朝鮮族の血を継ぐ。
そこが、狙いどころ」
「あの探偵。今は、周妮に夢中だ
が。その内、若い方に触手を
伸ばすハズ」
「周妮は、プライドの高い女。
自分の行為は、さておいて。
自分の男の浮気は、許せない
タイプ」
「なるほど。よくわかった」
「上海支社のIQ135楊雪迎
とやらは、私に任せてくれ」
「工作員に仕立てるには、
恋のトライアングルが一番」
盗聴録音の再生は、続いている。
どうやら、隣のボックス席から。
陣内が、話に割り込んできたよ
うだ。
「ところで、早く私にも。儲かる
話を教えてくれよ。その為に
会いに来たのだろう」
「そう急かすな。これから、
ゆっくり話してやる」
「君らは、サツに目を付けられ
ている」
「そのことが、使える」
「君らは、陽動作戦のオトリ役」
「ヘンな動きをするだけ。それ
だけで、充分」
「危ないことは、何も無い」
・・・・・・・・
〈白石が陣内に語った、儲け話〉
この話は、いずれ明らかに。
・・・・・・・・
「では今日は、ここまで」
「香織、深川舞を上手く使え」
「くれぐれも、飼い犬に嚙まれ
ないように」
◇
録音の声は、
ここで終わった。
「スナック范」の、
カウンターとボックス席の下に
仕掛けられた盗聴マイク。
一辺が１cmの黒のビニール
テープ状のもの。
168時間後に、自動的にゴミ屑
のように剥がれ落ちる仕組み。
いつもは、屈託のない笑顔で。
ボスに、冗談を飛ばす唯。
実姉、香織の隠された実像を知
り、ショックを隠し切れない。
俣阿野も同様。
お嬢様タイプの香織が。ここま
で自分を、侮っていたとは。
白石栄一と白木香織。
元夫婦が企てた、過去のこと。
そして、新たに企てていること。
盗聴音声からだけでは、
全容が全く見えてこない。
俣阿野の頭の時計が、
急に逆回転。
地底湖の底を、
眺めていたと思ったら。
いきなり、
猛スピードで順回転。
『FUTURE』の文字が浮かんだ。
（つづく）
■登場人物の紹介は、適宜掲載。
▶俣阿野志隈。偵事務所所長。元警視庁捜査一課
刑事。
▶吉本京歌。相。クワドリンガル（日英仏伊）。
フランス人クオーター。俣阿野の妻、懐妊中。
▶深川舞。大手商社M商事から派遣会社MJに転
職。新規事業部張。白石香織とK大からの友人。
▶白木香織。大手商社M物産秘書室。妹の捜索で
俣阿野と京歌とイタリアに。夫・白石栄一と離婚。
㈱MJ新社長に選出予定。白石から旧姓・白木に。
▶白木唯。香織の妹。一時行方不明者。テロ容疑逮
捕、釈放帰国。俣阿野の相棒見習い。
▶周妮周。中国人。ルポライター。イタリアで俣阿
野と遭遇。北海道で再会、旅行。㈱MJの上海支
社の「首席」に就任。俣阿野とセフレ関係。
▶楊雪迎。唯の同窓。中国人。IQ135の天才美女。
▶鬼頭史郎。警視庁公安部・外事課・管理官。
▶陣内智之。輸入雑貨商。元キャリア警察官。
▶范志玲。中国人。陣内の愛人。
▶白石栄一。香織の元夫。Ｍ物産・エネルギ
ー本部ロシア担当。スパイ容疑で拘束。釈放。
■本作品に登場する、地域・人物・組織等の名称
及び写真・イラスト等は。フィクション作品につ
き、現存するものと無関係。
■また同様、法規的齟齬、時代考証の矛盾について
ご容赦を。特に、コロナ禍などの状況。
■添削・校正なしでの配信につき、誤字脱字の程。
ご容赦を。
〈鰯の頭〉