約束の場所、渋谷の「カラオケ館」
に、白木唯と大石ひとみが居た。
持参した封書から、USBメモリ
ーを取り出しタブレット端末に。
BOX内のモニターに、タブレッ
トを接続。
画面には、
「ラブホPの外観」
「Pに入っていく、赤いアウディ」
「Pの駐車場に置かれた、アウデ
ィのナンバープレート」
「車に乗り込む男女、時間は
12月X日・AM1時」
「車内で抱き合う男女。男の
顔は、大石翔太」
そして、
写真映像に、まるでアテレコ▼
したように。
▼アテレコ
映像作品で、声優や俳優が後から声
をハメ込むこと。
アフレコ(音入)から派生した造語。
男女の、
「車内の会話」
「ホテル内での会話」
「ベッドでの声までも」
男の声は、明らかに翔太。
画面が切り替わり、
数枚の女性の顔写真と
プロフィールが、映し出された。
山際麗子。42歳。
写真では、三十代半ばに見える。
六本木の「クラブW」の雇われ
ママ。
田無市のマンションで、一人暮
らし。
「クラブW」のオーナーが、
パトロン。
モニターを、車内での抱擁画面
にしたまま。
「以上が、調査報告です」
「これから以降の、ご対応は
大石様の方で」
「ご請求額は、20万円です」
「指定の口座へ、振り込みを」
「では、失礼いたします」
と言って、唯は部屋を出て行っ
た。
いつの間にか、BOX内のBGM
から。
♪ 出逢った頃は こんな日が
来るとは思わずにいた ♪
杏里の「オリビアを聴きながら」が流れていた。
◆
事務所には、俣阿野と唯の二人
だけ。
すぐ横の、唯からメールが送ら
れてきた。
「ボス、楊雪迎のプロファイリ
ング、送信しました」
「それと、彼女とアポ取れまし
た」
「ボスの、スケジュールを見て。
明後日の午後四時。虎ノ門の
ご自宅にしました」
「この日は、奥様はJ大の同窓
会。終わったら、実家に帰る予
定です」
「私は伺いませんので、
よろしくお願いします」
「ミイラ取りの成功を!」
俣阿野には、最後の一行の意味
が即わかった。
「なんと、小癪な小娘」と、
呟いた。
ジャスト16時。
インターホンが鳴った。
依頼者を招き入れ、L字型のソフ
ァーへ、着席を促した。
括れたウエストから、スラリと
伸びた脚が。目の前で交差した。
経緯を聞く、俣阿野。
始めから、上の空。
相槌を打ちながら、心の中で。
「やはり、中国は広い」
「華流ドラマは、主役も脇役も。
端役さえも、美女ばかり」
「目の前に座る女性、もしや」
「長女湯唯」
「次女周妮」
「三女楊雪迎」
「三姉妹なのでは」。
一通り、話を聞いた俣阿野。
「ストーカーを特定するのは、
容易いこと」
「ただし、逮捕や補導は警察の
分野」
「警察は、確たる証拠や確証が
無ければ動けない組織」
「私なら、即刻。その男を目の前
から消して差し上げます」
日頃の俣阿野からすれば、
信じられないほどの。
前のめり発言。
「事情は、理解しました」
「引き受けましょう」
「1~2週間、退社から帰宅す
るまで、尾行致します」
「何か異変を感じたら、この
ペンの頭を押してください」
「数分以内に、私か警察官が駆
けつけます」
と言って。
一本のボールペンを、手渡した。
「それから、本調査に関する
費用請求は発生しません」
「なお、私の助手の白木唯には、
『勘違い故、依頼を取り下げた』
と、伝えて下さい」
「どうしてですか」と訳を訊く
楊雪迎に。
「貴女の口の堅さを確認する為
です。調査によって知り得た情
報は、たとえ依頼人であっても。
勝手に他人に漏らしてはいけ
ないのです」
「くれぐれも、お願いします」
話しながら、俣阿野は。
こんな幼稚な嘘。
果たして、IQ135の相手に。
通じるものかどうか。
必死に、笑いを堪えていた。
(つづく)
■登場人物の紹介は、適宜掲載。
▶俣阿野志隈。偵事務所所長。元警視庁捜査一課
刑事。
▶吉本京歌。相。クワドリンガル(日英仏伊)。
フランス人クオーター。俣阿野の妻、懐妊中。
▶深川舞。大手商社M商事から派遣会社MJに転
職。新規事業部張。白石香織とK大からの友人。
▶白木香織。大手商社M物産秘書室。妹の捜索で
俣阿野と京歌とイタリアに。夫・白石栄一と離婚。
㈱MJ新社長に選出予定。白石から旧姓・白木に。
▶白木唯。香織の妹。一時行方不明者。テロ容疑逮
捕、釈放帰国。俣阿野の相棒見習い。
▶周妮周。中国人。ルポライター。イタリアで俣阿
野と遭遇。北海道で再会、旅行。上海で再会。
㈱MJの上海支社の「首席」に就任。
▶大石ひとみ。浮気調査依頼人。広告代理店勤務
▶大石翔太。調査ターゲット。大手都市銀行・デリ
バティブ担当。
▶楊雪迎。唯の同窓。中国人。IQ135の天才美女。
■本作品に登場する、地域・人物・組織等の名称
及び写真・イラスト等は。フィクション作品につ
き、現存するものと無関係。
■また同様、法規的齟齬、時代考証の矛盾について
ご容赦を。特に、パンデミックなどの状況。
■添削・校正なしでの配信につき、誤字脱字の程。
ご容赦を。
〈鰯の頭〉