鰯の頭のmy Pick
眞一郎ら一行、六人。
勘定組頭の二名。
町方同心の二名(一人は眞太郎)。
通訳の冰冰。
東海道は、馬旅。
大阪からは、瀬戸内海を経由し
ての船旅。
無事、長崎・出島に着いた。
出島内の旅籠に、四人を残し。
眞一郎と冰冰の二人が、向かっ
たのは。「清国商館」。
◆
眞一郎は、「南蛮吹き」技術。
えりは、「雑技団」技術。
其々が、技術習得を目指し。
清国・上海に向かった、あの日。
出航が寛永15年。卯月26日。
大嵐で船諸共、暗黒の海に投げ
出されたのが、29日。
今、ときは。
寛保元年。水無月。29日。
今を、起点に考えるなら。
なんと、103年前の出来事にな
る。
単純に、計算すれば。
眞一郎は、126歳。
冰冰は、121歳。の勘定に。
◇
「清国商館」を訪ねた二人。
凡そ百年前。商館長・呉亜綸な
る人物の存在の、有無を尋ねた。
しかし。誰の記憶にも、何処にも
記録が無かった。
冰冰は、
淡い期待が、泡と消えたこと
に愕然。
「己の過去を示すもの」が、
何も無いことで。意気消沈した。
眞一郎は、気落ちした冰冰の肩
を抱き。
「これから我らは、上海に向か
う。二ヶ月余り滞在するが。
一緒に日本に戻るか、上海に
残るかの判断は。冰冰に任せ
る」
と、言った。
あの当時に比べ、便数が格段に
増えていた。
運よく、三日後に。
一行は、上海に向けて出港した。
航海日数は、風と波次第。
順調なら、5~6日。
上海まで直線では、二百数里。
真っ直ぐ進めば、四日で着くが。
実際は季節によって。海流の流
れの向きと、強さが違い。風の向
きも、速さも違う。
それでも、十日は要さない。
この度の、眞一郎らの特命任務
を掻い摘むと。
「清国の国民の生活調査」
・場所:上海の町の片隅。
・期間:二ヶ月。
・方法:対面(接触)
・対象:可能な限りの階層。
・項目:①衣食住②知識教育
③宗教観④異性関係
⑤気質
一見、仔細のようだが。極めて
大雑把な内容。
冰冰を除く、五人の個人的な感
想の集約。である。
「命」を出した将軍・吉宗は。
「幕府お抱え学者が提出する」、
最もらしい意見書より。
「個人的な感想」の方が、真実に
近いと、考えた。
そこで、特命隊(眞一郎ら一行)
は、上海の庶民に溶け込み。情報
の収集に、当たることになる。
面白いことに。
息子・眞太郎以外の、面構えを良
く見ると。どことなく、清国人っ
ぽい。
実は。
これが、この度の選考基準。
もう一つ。
眞一郎だけが知っている、
任務があった。
それは、帰国する際に。
「清国人を一人、連れ帰る」と言
うもの。
つまり、相手の「承諾の有無に
関係なく」である。
その際、必要なら。
誰か一人を、「清国に置き去りに
する」を、良しとする内容。
◆
出航から、六日目。
一行が乗った船が、上海港に着
いた。
(つづく)
■登場人物の紹介は、適宜掲載。〈年齢は数え年〉
▶源平眞一郎。38歳。南町奉行所・
与力(特別顧問)。「全商」首領。
▶徳川吉宗。8代将軍。
▶えり。33歳。「大江戸娯楽所」首領。
「座・南京豆」の演出・プロデューサー。
▶呉冰冰。33歳。清国商館長の娘。
「嬋」相棒。えりと〇×愛。作曲家。
▶呉亜綸。清国商館長。冰冰の父親。
▶源平眞太郎。17歳。南町奉行所・同心。
眞一郎の長男。
■本作品に登場する、地域・人物・組織等の名称
及び写真・イラスト等は。フィクション作品につ
き、現存するものと無関係。
■また同様、法規的齟齬、言語や生活物資等の時代
考証の矛盾についても容赦を。
■特に、コミュニケーションツールの携帯やテレ
ビ、パソコン。交通手段の自動車や電車、飛行機
が無き時代を、念頭に。
■添削・校正なしでの配信につき、誤字脱字の程。
ご容赦を。
〈鰯の頭〉