鰯の頭のmy Pick
南町奉行・大岡越前守に、
大阪・東西奉行所の、奉行交代
引継ぎを報告した、源平眞一郎。
体調不良での、帰還遅れを詫び。
併せて、同理由により閑職への
人事を。申し出た。
報告及び人事願いを、聞いてい
た。越前守。
「引継ぎ、大義であった」
「長旅、ご苦労であった」
「追って、褒美を遣わす」
「人事の件。あい分かった」
「既に、用意してある」
「本日付けで、特別顧問に任ず」
「辞退は、許さぬ」
眞一郎、これには。
驚いた。
与力から同心への降格を、覚悟
していたのに。
「特別顧問」は、昇格人事では
ないか。
「大岡様、何かの間違いでは」
の問いに。
「お主。大岡の目は、節穴か」
「体調が?私には嘘を付くな」
「遅れたのは。上方で見聞を深
める為で、あったのだろう」
「商人との、二足の草鞋を履き
たいのであろう。吉宗公との
約束を盾に」
大岡越前守は、何もかも。
お見通しであった。
「特別顧問は、重職だが閑職。
日々、奉行所へ出勤する必要
なし」
「ところで、どんな商売を考え
ておるのじゃ」
の問いに。
「なんでも屋」と答えた。
「今宵。吉原へ夜回りに出るぞ」
「奥方には。帰らぬと、使いを出
してある。大いに飲み、語り。
楽しもう」
◇
吉原遊郭の総籬。
「大阪は、どうだったかな」
「新町は。堀江は。南地は」
「北新地は。飛田は行ったか」
「京は、どうだった」
「島原の角屋は、行ったか」
「京の太夫は。吉原の花魁より
本当に上か」
たたみ掛ける問いに。
「大岡様、まさか私目に、隠密を
付けたのですか」
と、眞一郎。
「恐れ入ります。ただ一度だけ。
後学のため、角屋へ」
「私目は、京言葉が分からぬ故」
「嘘を付くな。なにをするのに。
言葉だと。ハッハッハッ」と。
越前守。これまた、お見通し。
日本橋の屋敷に戻り。
まだ、二日。
まりとの、挨拶も済まぬのに。
遊郭遊びとは。
宮仕えは辛い。
この半年余り。
行きは、きの。
帰りは、えりに加え冰冰。
大岡様は、カマを掛けているが。
実態は知らぬハズ。
「なんの、不自由もありません
でした」と、言えず。
「心配り、痛み入ります」と。
越前守と、部屋を別れ。
吉原遊女の技に、身を任せた。
◇
朝帰りした、眞一郎。
七ヶ月ぶりに、我が子を抱いた。
長男「鈴之助」
長女「りま」
次女「すま」
長男と次女が、まり似。
長女が、少し自分に似ている。
妻のまりは、ふっくらしていた。
まだ、二十二歳と若いが。
幼顔が、少し母親顔に。
女中の、たきは。
住み込みでなく、通い。
結婚したようだ。
躰の大きさが。
添い寝をしてくれた頃の。二倍
になっていた。
母の、いねは。
確か四十四歳のハズ。
何故か元気一杯。まりとも、
上手く行っているようだ。
まりといねと、たきの三人で。
三つ子を育てている。
まりとは、懐妊以来。
一年以上。久々だった。
「一度に、三人作ったから」
「子供は、もういい」
「だから、協力して」と、言った。
どんな意味なのか。正確に理解
出来なかったが。質さなかった。
◆
眞一郎は、新事業「なんでも屋」
の起ち上げに着手した。
すべきことは、山の如くある。
難関の資金調達。
「丸三屋」の主人、三伊中利から
の資金提供を、受けずに進める。
ただ、協力は仰ぐ。
資金調達の秘策が。
幕府お抱えの画家「尾形光琳」作
の「燕子花」の屏風絵。
この絵柄の「独占的使用権」。
この絵柄を用いた、新商材を。
「丸三屋」から売り出す計画。
先ず。
資金調達の為の、資金が必要。
同時並行して、「大政」と「小政」
の採用である。
(つづく)
■登場人物の紹介は、適宜掲載。〈年齢は数え年〉
▶源平眞一郎。南町奉行所・与力。
▶まり。鰯丸の幼馴染。眞一郎の妻。
▶えり。島田宿から旅に同行。
▶呉冰冰。清国商館長の娘。
▶源平眞左衛門。眞一郎の父親。
▶いね。眞左衛門の妻。眞一郎の母親。
▶三伊中利。呉服商「丸三屋」主人。まりの父親。
▶きく。三伊中利の妻。まりの母親。
▶たき。源平家に古くからいる女中。
▶佐助。丸三屋の番頭。一時、眞一郎の義父。
▶大岡越前守。大岡忠相。町奉行。
▶徳川吉宗。8代将軍。
■本作品に登場する、地域・人物・組織等の名称
及び写真・イラスト等は。フィクション作品につ
き、現存するものと無関係。
■また同様、法規的齟齬、言語や生活物資等の時代
考証の矛盾についても容赦を。
■特に、コミュニケーションツールの携帯やテレ
ビ、パソコン。交通手段の自動車や電車、飛行機
が無き時代を、念頭に。
■添削・校正なしでの配信につき、誤字脱字の程。
ご容赦を。
〈鰯の頭〉