鰯の頭のmy Pick

 

月が替わって、如月(きさらぎ)(2月)(なか)ば。

江戸から、新奉行二人が。

大阪・東西の御番所に着任した。

 

これから、一月(ひとつき)余り。

両御番所の引継ぎ立会が、眞一

郎のお役目。

 

日中、眞一郎が居ない間。

きのは、暇を持て余している。

仮住まいの(はた)()から、芝居小屋

が建ち並ぶ「(どう)(とん)(ぼり)」まで。

1里10(4,3)()

 

充分、歩ける距離だが。

眞一郎が、

「危ないから、駕籠(かご)に乗れ」

と言うので。

三日に一度。

贅沢にも、駕籠でやって来る。

 

道頓堀は、文化の中心。

大阪随一の遊興地。慶長17(1612)()

横堀川と西横堀川を結び、木

津川に注ぐ運河工事を開始。

手掛けたのが、「安井道頓」。そこ

から、運河の名を「道頓堀川」に。

 

承応2年には、「道頓堀五座▼」

が、(のき)を連ねている。

▼「中座・角座・朝日座・弁天座・

  浪花座」

 

 

好色一代男」など、浮世草子の

第一人者であり、人形浄瑠璃の

作者。井原(いはら)西鶴(さいかく)の作品を、観るこ

とが出来る。

 

曾根崎心中」などの、

浄瑠璃作者・近松門(ちかまつもん)()衛門(えもん)

作品も。

浄瑠璃は。

三味線を伴奏に、義太夫が語る

「語り物」。

三味線を心得る、きのには。

(たま)らない娯楽。

 

浪速っ子は、江戸っ子よりも。

数倍、芝居好きだと知った。

 

一方、眞一郎は。

 

大阪人の、

働く姿の「活気

 

に、圧倒された。

 

江戸の町は、武士も町人も。

どこか、気取っている。

大阪の人は、

(おおむ)ね皆、「あけっぴろ」。

特に、商人の「(ようす)り様」に、仰天(ぎょうてん)

した。

まるで、

掛け合い漫才」のようだ。

 

船場(せんば)」は、商業の中心。

「四つの堀川」に、囲まれた地。

▼「東横堀川・西横堀川・長堀川・土佐堀川」

 

ある日、

西御番所の、奉行に随行し。

船場の南にある長堀川(そば)の、

島之内(しまのうち)を訪れた。

 

ここで、仰天(ぎょうてん)の光景を目にした

看板に、「住友銅吹所(すみともどうふきしょ)」とある。

 

寛永13(1636)()

(住友)屋理兵衛が、京から島之内に、

銅の精錬を移した。

全国各地の、銅山から掘り出さ

れた銅は。ここでの高い技術で

のみ、精錬が可能だった。

大阪の「銅座」で「銅銭や鍋釜」

に。

そして、長堀川から船積みされ。

長崎「出島」に運ばれ、中国、東

南アジア、インド、西欧へ輸出

元禄期には、産銅量世界一であ

ったのだ。

特筆すべきは、荒銅から「銀」を

抜き取る技術は、長らく門外不

であった。

 

 

眞一郎が驚いたのは。

南蛮吹きと呼ばれた、銅の精錬

技術。そして世界への輸出。

は、当然のこと。

 

それよりも。

泉屋住友は。

「銅」とは、全く畑違いの、

「金貸し業・両替業」でも。

大成功している、ことだ。

 

 

武士の時代は、やがて終わる

記憶喪失で体験した、百姓一揆

が拡大すれば。やがては藩の騒

動になり、幕府とて先は闇の中。

 

これからは、商業の時代。

このまま武士を、続けていても。

面白いことは無い。

江戸の「丸三屋」を、

なんでも屋」に変えよう。

 

 

眞一郎の頭には、日を追うごと。

「なんでも屋」の夢が広がった。

きのに、話すと。

きのも、大賛成と言った。

 

 

「眞一郎様は、武士より商人向

き。きっと、成功するハズ」

私は、大阪に残るわ

「ここで、やることが見つかっ

から」

と、言った。

 

 

きのは。

東海道を、一緒に旅をした中で

の、一番の想い出は。

二川宿の陣屋で、皆さんの前

 で披露した。三味線と長唄

あのときの、拍手喝采が忘れら

れない。と言った。

 

 

まもなく。きのは。

道頓堀の「浄瑠璃小屋」の一つ。

竹本座」に入門。

義太夫の修行に、入ることにな

ったのである。

竹本座は、近松門左衛門が興し

た小屋。近松は、きのの入門の僅

か前に他界。

 

 

 

きのは、

旅籠を出て、「竹本座」に。

 

眞一郎は、引継ぎ立会の役目を

終え。

 

江戸へ戻る前夜

二人は、明け方近くまで。

別離(わかれ)を惜しんだ。

 

(つづく)

 

■登場人物の紹介は、適宜掲載。〈年齢は数え年〉

▶源平眞一郎。

▶きの。

 

■本作品に登場する、地域・人物・組織等の名称

 及び写真・イラスト等は。フィクション作品につ

き、現存するものと無関係。

■また同様、法規的齟齬(そご)、言語や生活物資等の時代

考証の矛盾についても容赦を。

■特に、コミュニケーションツールの携帯(スマホ)やテレ

ビ、パソコン。交通手段の自動車や電車、飛行機

が無き時代を、念頭に。

■添削・校正なしでの配信につき、誤字脱字の程。

ご容赦を。

〈鰯の頭〉