鰯の頭のmy Pick
成子の家庭環境。
・父親、呉藤秀明(57歳)
独立行政法人/造幣局/理事。
・母親、幸子(55歳)/専業主婦。
・妹、聖子(23歳)/民間企業OL。
父、周明氏は。大蔵省入省後、30代
で外局へ異動。60歳定年を前に近く
天下る予定。既に、住み慣れた王子に
分譲マンションを購入済み。
妹、聖子は去年卒業。損保会社に就職。
成子には、大学進学の為の経済的な
問題はなかった。ただ学業より。
人と触れ合う仕事を、選んだ。
誰もが認める容姿と、特有の柔らか
な仕草。少し「天然」な言動は。
周りからも、看護婦は天職に見えた。
自身の懐妊を知り。
世界の「景色が変わった」と、さえ
感じた。
9ヶ月後の出産。誕生する生命。
そして、初めての育児。
喜びと不安が、交錯する日々。
なのに。
来月中旬から、巽はいない。
◇
巽は、1ヶ月後に迫った1年間の
海外研修を控え。大忙し。
30歳前での、海外研修は異例。
大抜擢。
社歴3年。プロジェクト配属1年。
同社での過去20年間。この研修に
参加した5人は。皆、所長もしくは
役員に昇進している。
実際のところ、この研修。
研修とは名ばかり。肩書への箔作り。
この研修の参加者は。
半年前に、別の人間A氏(42歳)に
決まっていた。
ところが、A氏の腎不全が発覚。
急遽辞退。
他の候補を飛び越え、巽が選ばれた。
巽を強く推薦したのが、同じ大学の大
先輩。
取締役・研究所長「森肇」(53歳)。
巽と成子の結婚式で、仲人を務めた
人物。
〈時代を今から4年、遡る〉
森肇は、追突事故で滝野川病院に
入院。
その時、外科病棟で看護を担当した
のが、成子。
1ヶ月の入院生活の中で。
森は、「白衣の天使」。
成子の虜になった。
退院後、何度か食事に誘い。
三ヶ月後。都心のホテルで一線を越
えた。
森は妻帯者。従って不倫。
成子は、承知の上で交際した。
幼馴染の工藤との、空虚な交際。
時折り躰を襲う、女の炎の捌け口。
双方の利害が一致した。
親子ほどの年齢差。
ホテルの一室での関係が、2年続き。
技が磨かれた。
〈時代を今から2年、遡る〉
成子は、将来を考え。
関係を絶った。
森は、未練を残しながらも。
成子の意思を受け入れた。
飛鳥山公園で。
巽と初めて再会した日。
勤務先が「森肇と同じ」。
しかも。研究員。
もしや森の部下かも。と驚いた。
◇
結婚の意思を固めた、巽は。
上司でもあり、大学の大先輩。
森所長に、仲人を依頼。
成子の、写真を見せた。
森は一瞬。息が止まった。
まさか、彼女の仲人を。
衝撃の偶然に。
世の中は、斯くも狭いのか。
「中々の美人じゃないか」
「喜んで、引き受けよう」
と、二つ返事で承諾した。
◇
森所長が、巽を研修に推挙しよう。
と、画策した時点では。
成子の懐妊は、明らかではない。
森は、
「巽を海外に追い出せば」
「暫くの間、成子の躰を」
の、邪念を抱いていた。
ところが巽から、研修受諾と合わせ。
「成子の懐妊」を、知らされるとは。
(つづく)
□「Viola」は、イタリア語で「紫」。
■本作品に登場する、人物名・国名・組織名等の名称及
び写真・イスト等は。フィクション作品につき、現存
するものと無関係です。
また同様、法規的齟齬、時代考証の矛盾についても容赦
を。特に、コミュニケーションツールの携帯が無き時代
を、念頭に。
■添削・校正なしでの配信につき、誤字脱字をご容赦くだ
さい。