一つのキーワードから。
無限に広がる「妄想・空想」。
あらすじは、キーボード次第。
⑫キーワード「島嶼」
◇
午前8時。ホテルロビー。
ガイドの呉紫が現れた。
彼女の横に。若いインドネシア人が。
どうやらアシスタント兼ドライバー
のようだ。
インドネシアは、一万を遥かに超える
島々からなる島嶼国家。
日本では、観光地としてのバリ島が有
名だが。
主な島では、ジャカルタのあるジャワ島。
スマトラ島。カリマンタン島(ボルネオ島)。
スラウエシ島、など。
今日の予定は、ジャワ島内の木材会社
事務所、二ヶ所への挨拶。
明日と明後日は、カリマンタン島の伐
採現場と一次加工工場の視察を予定。
今日、訪問する事務所は。ジャワ島の
東部、スラバヤにある。
スラバヤは、インドネシア第二の都市。
オランダ植民地時代から、貿易の中心
地。デビ夫人の夫、故スカルノ大統領
の故郷。
同じジャワ島ながら、ジャカルタとス
ラバヤは、陸路なら790㎞。
車を飛ばしても9時間の距離。
文夫らは、空路で。1時間30分。
昼前に着いた文夫に、ガイドの呉紫
が、昼食がてらに少し街を案内した。
アラブ街や中華街があり、貿易都市に
相応しい。異国情緒たっぷりの街。
ランチはジャワの定番の焼きそば「ミ
ーゴレン」と、甘辛いピーナツドレッ
シングをかけたサラダ「ガドガド」。
肝心の仕事は。
午後2時から4時までの間。
二つの会社の、二つの事務所を訪れ。
植林地と工場見学に対する「心付け」
を渡しただけだった。
いずれの事務所も、呉紫の流暢な
インドネシア語と美貌に満足の様子
であった。
翌日は予定通り、ボルネオ島に渡り。
チークの植林地と伐採現場を見学。
サマリンダに泊まり。
マホガニー材の加工工場を見学した。
後で分かったことだが。
マホガニーは、殆どが中南米産でイン
ドネシアは加工が中心。
マホガニーの木
◇
インドネシアに来て6日目が。
終わろうとしている。
来てみて。渡航の意義に反省もあった。
だが。
これまでの自分への慰労と。新たな出
発記念として。この旅を意味付けした。
そして。
呉紫の魅力に傾斜する。鼓動の高ま
りに戸惑い始めていた。
今夜は呉紫と部屋で。食事をしよう。
彼女は承諾すると。予感がした。
夕方。ジャカルタのホテルに戻ると。
フロント・インフォメーションに電報。
電報には「アユミキトクスグカエレ」。
文夫は直ぐに。博多の家に国際電話を
した。
*時代は、まだ携帯・スマホのない。
1987年/昭和62年のことである。
(つづく)