女性によって織りつづけられたキリムからのメッセージを読む

『願いを伝える遊牧民の布 キリム型の手紙』

桐山エツコ さく・え

かもがわ出版2023.1 1,800円

 「キリム」は、ヒツジやヤギの毛織物だ。願いを込めた絵柄が折りこまれて、「まるで一枚の手紙のよう」と桐山さんは書いている。西アジアから中央アジアで、母から娘へ伝えられてきた伝統の織物だが、次第に織り手が減っているそうだ。紛争地であることも大きいが、遊牧生活そのものが消滅しつつあるからだ。

 それを記録し、伝え、読者である私たちに、そこに住む人々への理解と共感とを呼びかけている。

「世界に分断が、する側、される側双方の苦しみのなかで進むあいだ、私が日本から遠いその出来事に関心を持ち続けた理由は、ひとえにキリムに対する共感からでした。」

「『キリムが好き』というたったひとつの気持ちが、相手へのジャッジから入らない『やさしいはじまり』を作るのです。そして、他者との違いに焦点を当てて止まらせず、そこから『好き』を見つけるセンスを、多様な状況で育つ新しい世代の子どもたちに諦めずに伝えることが、途方もない混迷の今においての小さな光であると、確固たる意志をもって思うのです。」と。

 キリムの多様性を描く重厚な絵と、遊牧生活を描くさわやかなスケッチとが織りなして、キリムのある暮らしを伝えてくれる。22.1.15