佐藤博『映画の本棚』

同時代社2022.9 2700円

 雑誌『教育』に隔月で連載されている映画評。「評」というより「映画へのいざない」といった方が適切だ。必ず観たくなる。ここには2004年から2022年までの95本の映画が紹介されている。数えてみたら、そのうちの21本は私も観ている。わずかに22%だけど。

 佐藤さんは東京の中学校社会科教師だった。「中学校教師を生きて」というエッセイが書き下ろされている。その中でこう書いている。

「教育は恋愛に似ている。教育とは“関係”であり、好意ある視線が人を向上させる。教師とは、きっと愛し愛されることを本質とした職業なのだろう」

名文句である。一本一本の映画評の中に引用しきれない名文句があって、キュンとさせられる。それを紹介していたら、いつまでも終わらない。ぱらりと開いたページに胸を突かれ、新しい見方を教えられ、豊かな世界に誘われる。つまりロマンチストなのだ。

 「中学校教師を生きて」の続きにこう書いている。

「映画と同じように、私の童話は、たくさんの中学生とともに過ごした日々のなかに刻まれている。数えきれない中学生の笑顔も涙も感動も、私にとっては「作品」だったと、いまは思う。私は彼らとともに何度もの“少年期”を過ごし、自分の物語を生きることができた。そして私という小さな人間の欠片が、私の教えたたくさんの子どもたちの人生に残っているとすれば、教師とはなんと素敵な職業なのだろう。

 今日も放課後の教室に、静かに陽があたっている。若い教師たちもまた、この仕事にある温かい陽光を味わい、子どもと生きる歓びに出会ってほしいと願わずにいられない」

 詩人だなあ…!

 サブタイトルは、「世界はとても不思議で美しい」。「とても」を入れるところがロマンチストなんだなあ。ぜひ手に取って開いてください。まず、どのページでもいい。元気が出ます。