8月22日(土)晴れのち雨か(一雨欲しいな) 『彼女の知らない空』

 これは新聞書評で知った本。早瀬耕(こう)という作家の本は初めてで、短編集のわりに苦戦した。だが、とても興味深い短編集だ。日常の中に潜む「明日」というか・・・。

 題名の『彼女の知らない空』は、「改正憲法が施行されて、初めての冬」。自衛隊千歳基地配属されて官舎に住む「ぼく」と妻の生活を舞台にしつつ、次第に変わっていく軍隊の姿を描いている。友人が派遣されたQ国の部隊には交戦権が与えられている。

「その現地指揮官のひとりである榊原には、突発的な攻撃を受けた際、戦闘に応ずる権限が内閣総理大臣から移譲された。そして、命令拒否をすれば、一般の裁判所ではなく軍法会議で罪を問われる」

 パイロットであるぼくは、千歳基地の無人機操縦室からQ国政府軍の空港の無人機軍用機を操作してトラックの動きなど反政府組織を警戒している。そのトラックのドライバーたちの顔から反政府組織のメンバーか否かを瞬時に多国籍軍司令部の画像解析版画が解析して知らせる。それによっては機銃掃射することになる。この部屋の時計はQ国に合わせてある。

 こういう緊張感のある仕事と、妻には語らない日常との乖離。そして、徴兵制などの迫る「明日の日本」。こういうリアルな近未来が語られている。強い反戦ではないけれど、文学という「社会のカナリア」でメッセージが届く。

 『東京駅丸の内口、塹壕の中』では、「システム開発のプロジェクト」でほとんど家の帰る時間もなく働く43歳。次第に精神的な鬱状態から妄想。「政府から軍への召集令状が郵送で届く」「いつの間にか、徴兵に関しては土日でも手続きが可能なように東京都の条例が改正されていた」という。“妄想”という近未来の不安の反映だろう。

 あまり読み慣れていない作家の世界(大きな企業で働いた経験がないからかも…)になかなかういていけないところがあったが、テーマ、内容はとても身近で深いメッセージだ。

 「解説」(瀧井朝世)がとてもいい分析、評価をしていて、まずここ読んで始めるのがいいかもしれない。

「全体を通しての特徴は、まず、どれも〈大きなもの〉のなかでの個人の無力さが描かれている点だ。憲法を改正した国家、企業や自衛隊といった組織の方針、SNSなどで広まる世論、そして科学技術や医療技術の発展。そうしたもののなかで、戦争に加担したくない、人を殺したくないといった正義や倫理観が揺らぐこともあれば、いつのまにか過重労働が精神を蝕んでいる場合もある。」

「戦争の気配が色濃く出ている短編が多いのも特徴だ。・・・(中略)・・・、

 読み手は、戦争があった時代を経て今の自分たちがおり、そしてまた戦争の気配のある時代に突入していることを実感させられる。本作が近未来ものというよりも、明日の日本という気がしてくるのだ。」

 カバー裏の「概要紹介」はこう結んでいる。

「抗えない状況で自らの正義が揺らぐ時、何ができるのか。今、私たちが直面する危機について問いかける短篇集。」

 これも、ピタリで、うまいなあと思った。編集者の熱い思いが伝わってくる。

 「解説」「カバー」に、もう一度学ばされた。杉並図書館の本。

 早瀬耕『彼女の知らない空』小学館文庫2020.3.680円