導入の文章がいいですね。
――さあ、今日は君も、探偵です。X氏から依頼の電話がありました。
「ある重要人物についてできるだけ詳しく調べてほしい」。
 外見や性格、くせや行動パターンまで細かく報告しなければなりません。データはすべて本に書いてありますよ。X氏の期待にそえるよう、しっかり調査しよう!――
…、これを読んで、私はさっそく携帯用レインコートを取り出してきてみました。鏡に映った「探偵」姿はなかなかおもしろいものでした。それで、教室に登場してみると、子ども達はワーワーと盛り上がりました。大きな虫眼鏡を片手に、本を持って。…、以後、アニマシオンをやる時の私のスタイルになりました。
 これはちょっと議論を呼んで、「アニマシオンは変装なんかでごまかすものではない」(もっと神聖なものなのだ)というご批判も受けました。ところが、その後、パリ市立読書センター(アニマシオンセンター)に行った時、読書と美術と音楽の3教室のうち、読書のアニマシオンワークスタジオの教室の壁に、なんとトレンチコートの少年探偵のシルエットが貼られていました。参加者の一人が見つけて、「岩辺先生がいるよ!」と示してくれました。物語探偵団なんですね。
 まず、「この本の中で誰が重要な人物ですか?」と問うところからスタートします。「どの人物が重要で、どの人物が重要でないかをみんなの意見が一致するまで話し合い、決定します」と書かれています。
 しかし、これがかなり難しいですね。『エルマーのぼうけん』ではエルマーになるのは当然です。しかし、『ごんぎつね』だったらどうでしょう? 「ごん」と「兵十」に分かれるでしょう。『わすれられないおくりもの』の時も、「あなぐま」さんと「もぐら」さん」に分かれました。こういうとき、あえて一人に絞らなくてもよいと思います。二つのグループに分かれて、それぞれに人物調査をしてもらえばいい。そして、物語における役割を分析して、最終的な討論をしてみるとおもしろいでしょう。
 保護者に協力してもらって、議論の後に、裁定をしてもらうのも面白いでしょう。
「一番難しいのは、本の選び方です。人物がぼんやりと描かれていたり、人物描写に豊かさが欠け、いきいきとしていない本では、このゲームは面白くなりません。」と書かれていますが、さすがに実践者の視点ですね。黒沢先生はこのゲームのテキストとして、『たんていのたんてい』(中川季枝子、学研)、『きえた犬のえ』(M.W.シャーマット、大日本図書)、『愛犬行方不明事件』ボンソン、偕成社)、『犬の毛にご注意』(M.B.クリスチャン、大日本図書)を挙げています。
 その後、あまり私はこのゲームをやってきませんでしたが、教室では物語教材を取り上げる時に、まず通し読みをした後に、やってみるといいでしょうね。
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