第一話 天の窓

兄が小学校、私はまだ幼稚園の頃の話だ。
兄は、近所でも評判の「面張り」だった。
わんぱく坊主と言う意味で、よく使われていた方言だ。

例えば、触っちゃいけないっているものを勝手に触って壊す。
出かけたら、勝手に走り回って迷子になる。

とうとう母親が見かねて、裏の井戸のところに行って、腰のところを持って、
「落としたろうか?」
って言ったら、
「天の神さまぁ。」
と叫んだことが我が家の語り草として、毎年の年末の笑いを盛り上げていた。

私も、結構いたずらしていたけど、三男の悪知恵で見つからないようにしていたはずが‥‥。

〜・〜・〜・〜・〜

兄が、裏門のところで呼んでいた。
「めっちゃ面白いところがあるよ。」

裏に行くと、ブロックに梯子がかけてあり、
そのまま屋根の上に上がれるようになっていた。
兄が、スタスタ上って行ったので、後について上がった。
1階の屋根から、1段上って、2階の屋根につながっていた。

どんどん後についていくと、1番表側の看板が見えるところに出た。
うちの家は、時計屋をしていて、大きな看板が立ててあった。
その看板を持って前を覗くと、一筋だけの商店街の道が丸見えだった。


 


上から商店街の建物を見るなんて、ちょっと怖いけど、爽快な気分だった。

前の道を見ていると、近所の人が気がついた。
「危ないよー。早く降りなさい。」
と大声で呼びかけてきた。

それでも、兄は全く気にせず、屋根の上をうろうろしていた。
私は、まずいと思って降りようとした。
帰る道がよくわからないので、横にそのまま降りて、隣の家の屋根に上ってしまっていた。

焦っていたのか、何か平らなものを踏んでしまった。
「パリン!」
と大きな音がして、足が太ももまではまってしまった。
何とか這い上がって、裏に行って梯子から降りたら、母親が待っていた。

「あんた何しちょるかね!」
「大変なことになっちょるよ。」
母親が血相変えて、大声で怒鳴った。

今まで、こんなに叱られた事は無い。
「隣の家の天の窓を破ったやろう。」
「お店の中が割れたガラスで大変なことになっちょるよ。」
と怖い顔で言われたけど、なんのことかさっぱりわからなかった。

「天の窓」ってなんだろう?
意味がわからなかったのだ。

後でゆっくり聞いてみると、明かり取りのために屋根にガラスを1部貼り付けてあることがやっとわかった。

隣はスナックをやっていて、お店を明るくするために「天窓」をつけていた。
そのお店のカウンターの上に、ガラスが散らばって、大変迷惑をかけたということだ。

親が平謝りに謝って弁償したに違いない。
何か罰で、2人ともお手伝いをさせられた記憶がある。
半世紀以上たっても、母親に心配をかけたことが忘れられない。