リング上で亡くなるなんて… | 岩上安身 オフィシャルブログ powered by Ameba

リング上で亡くなるなんて…

三沢光晴さん 試合中倒れ死亡




レスラーが、リングの上で亡くなったら本望だろう、という人もいるだろうが、とんでもない。 




三沢は、単なる一介のレスラーではなく、全日本プロレスの実質的な後継団体であるプロレスリング・ノアの社長である。




この人ほど、社員である所属レスラーを食べさせてゆくことに心を砕いていた人はい

ない。




別の言い方をすると、夢を売るのが商売のプロレス界にあって、こんなに中小企業の社長然とした人もいなかった。




苦労したんだろうな、と思う。




そんな三沢が、まさかこんな事故で命を落とすとは……。 




プロレスの技は、どれほど危険そうに見えても、絶対に安全でなければならない。どんなことがあっても、事故を起こしてはならない。




「場外での流血の乱闘」などという大見出しが、東スポの一面を飾っても、それが決して致命傷には結び付かないという暗黙の了解があってこそ。




レスラーは互いに過激に見える技をかけあったりして、観客も安心してエンターテイメントとして楽しめたのだ。 




必殺技が乱発され、インフレ化したのは、70年代後半の全日本プロレスからだが、その結果、かつては一撃で相手を倒す必殺技の代名詞だったバックドロップが、近年は、単なるつなぎわざのひとつとなってしまっていた。




そんな技で、人が死ぬこともある、とわかってしまったら、レスラー同士、おちおちと技を掛け合えなくなる。




今回の事故は、46歳という高齢でリングに上がっていた三沢だからこそ起きた、特殊事例だという向きもあるだろうが、レスラーの高齢化は進んでいる。




生活のため、引退できず、リングに上がり続けている者もおり、他人事ではない。リング上のパフォーマンスは萎縮せざるをえない。 





観客の「暗黙の安心感」を損なった影響も大きい。人が死ぬかもしれないショーを、テレビは今までどおりに、放映し続けるわけにはいかない。再発防止策が打たれなければ、スポンサーも離れる。興行にも影響が出る。   




だが、バックドロップ程度の技を禁じたら、誰がそんな地味な試合を見るだろうか? 他方には、リアルファイトで人気を集めている総合格闘技がある時代に。 




高齢のレスラーがリングに上がるのを禁じたら? そうなったら、多くのロートルレスラーが職を失う。




また、細く長く働ける職場と思って「プロレス界に就職」(故・ジャンボ鶴田の名言?迷言?)しようとする若者も減るだろう。 




間違いなく、今回の事故で、プロレス界は大ダメージを受けるだろう。一時的には追悼興行も営まれ、全日時代からの「優しいファン」は、三沢を惜しみ、会場に足を運ぶだろうが、いつまでも、香典の匂いがする会場ではいずれ客足が遠退く。 




痛いなんてもんじゃない。業界を萎縮させ、配下のレスラーの生活を脅かすなんて、責任感ある三沢が一番したくないことだったろう。 

 


下手すりゃ、プロレスというジャンルすら、無くなってしまうかもしれない。それほどのインパクトを与える事故だった。 

 



気の毒に……。あとのことが心配で、三沢は、成仏できないだろう。




故人の御冥福を、つつしんでお祈りいたします。