俺が見せるのは手相…、そして事前の生年月日などの情報程度。
何を言い、どうしろと言ってくるのか?
座るよう促され、神田が横にいてもまるで気にせず鑑定を始め出す。
「ふむふむ…、あなたはこれまで色々な事をしてきたんじゃないですかね? ん、生命線が一度途切れ掛けている。一度大病をしたんじゃないですか?」
大病…、ずっと健康に生きてきた俺にとってコロナワクチン接種翌日に起きた心筋梗塞しかあり得ない。
しかも一週間後に二度目が来て、本当に死に掛けたのだ。
のっけから正直この人凄いなと思う自分がいた。
それでも自分であえて情報は言わず、黙って聞く事に撤する。
「今年の九月で五十一歳…、あなた、五十二歳ぐらいから本当に面白くなりますよ」
「面白く? どういう意味合いでしょうか?」
「方位学も兼ねて言いますと、運気が爆上がりする傾向ですね。本当に長生きもするんですねー」
「長生き? 俺、去年死に掛けたんですよ?」
「でもこうして五体満足元気で、生きてらっしゃるじゃないですか。九十…、九十八歳ぐらいまで長生きしますよ」
「そんな無駄に生きたくはないですけどね」
「本当に色々な事をやられてきたみたいですね。五十二歳ぐらいから、あなた、凄いお金持ちになりますよ。これまでの事を色々な角度から精力的に動き、そうですね…、収入も多方面から入ってきます。六つ…、いや七つぐらいから。あなたが手掛けるのは、五つ…、うん、本当に器用に色々やられるんですね」
「……」
今の俺にとっての収入源はインカジ『レディ』で働いた時間分の給料のみ。
他に副収入で考えられるのが、心筋梗塞で入院した時の高額医療制度での返金ぐらいが関の山。
「多方面ではありますが、一番真剣に頑張ったものが主軸になりそうですね」
六つか七つの多方面からそれぞれ…、しかし主軸は一つ。
小説しか考えられなかった。
全日本プロレス、バーテンダー、総合格闘技、絵画、ピアノ、小説、整体、料理。
これらバラバラの点が何故、繋がったのか?
それは文章を書く事で初めて点と点が線として繋がる実感を知っているからだ。
もちろんこの年齢になった今、戦う事は無理だ。
ピアノだってもう二十年近く弾いていない。
つまり、酒と絵と小説、そして靭帯施術と料理…、この五つが肝になってくるという事か?
そして母体となるベースは小説しかないと……。
「つまり…、また作品を書けと?」
「作家さんでしたか?」
「ええ、随分小説は書いていませんが、過去処女作で文学賞を取り、本にした事はあります」
「うん、あなたの主軸は間違いなくそこなんでしょうね」
「……」
「凄いじゃん、岩ヤン!」
「ちょっとごめん、神田は口出さないで」
三十分しかないのだ。
神田のどうでもいい感想や雑談は必要ない。
それより十年以上執筆をしていない俺が、また小説を書く?
印税も入らず、生活苦に陥り再び裏稼業へ戻った底辺の俺が?
「それと同時期…、うーん、もうちょっとあとかな。素敵な女性と知り合いますよ」
「いやいや、俺はもう五十ですよ? さすがに色恋沙汰はもう……」
一瞬池袋のちかの顔が浮かぶ。
いや、あの子は飲み屋の女に過ぎない。
それにこの先出会うと言っているので、彼女は該当しない。
「そういう普通の色恋ではなく、そうですね、あなたが真に尊敬できるような…、お互いを高め合うような異性と出会うでしょうね」
「やったじゃん、岩ヤン! いい女との出会いあるってさ」
「いや、だから神田、ちょっと黙ってて」
「つまり、これまでのあなたは停滞し命を失い掛けもしました。でも、今年でなく来年辺り…、五十二歳ぐらいから金銭的な芽が多方面から出てきて、五十三歳ぐらいですかね。素晴らしい異性と出会う。そんな結果が出ていますよ。あと長生きも入りますね」
異性…、前回神田が連れてきた渚の顔が浮かぶ。
いや、あの子も違う。
彼女は人妻なのだから。
「あと一年半後ぐらいから面白くなると? その女性って言うのは?」
「そうですね、歳はあなたより少し若くなるのかな? 十歳ぐらいの年齢差で、それでも外見というよりも、心を尊敬するような方ですね」
「……」
ちかはまだ二十代後半、渚は三十代だから、やはり該当していない。
そんな出会いがまだ俺に残っているというのだろうか?
「あ、あといい事ばかりじゃなく、六十歳で大腸癌になるかもしれないから、五十七歳ぐらいでポリープ検査しておいたほうがいいですよ。そこさえ乗り切れば、長生きできるでしょうね」
「六十で大腸癌……」
そういえば盟友斉藤弘一は、何の癌だったのだろう?
ただ癌が再発し、転移して亡くなったという事しか知らない俺。
このまとめで三十分の時間制限が来る。
正直延長してもう少し聞きたい気分だったが、さらに二万五千円を払う余力はない。











































