猛然と腹が立つ

 

◇ 中国大使の暴言

 先月末のことだ。台湾の独立問題に関して中国の駐日大使が、台湾の独立に日本が加担すれば「日本の民衆が火の中に連れ込まれる」と恫喝したというニュースをネットで見た。この駐日大使は昨年も同じ発言をして、当時の外務大臣は「極めて不適切」であり「外交ルートを通じて厳重な抗議を行った」と国会答弁したが、抗議は何の役にも立たなかったようだ。この大使は明らかに確信犯なのだ。日本政府も外務大臣もペロペロキャンデーと同じだと舐められたのだ。今年の発言について外務大臣が厳重な抗議を行ったのかどうかは知らない。第一にこの発言は記事にもならなかったしニュースにもならなかった。

 言った方も言った方だが、目の前でたかが大使ごきが傲慢にもひとつの独立国家の存亡を語り、自国民への攻撃を示唆して恫喝したにも関わらず、民主党政権時代の首相だった男とその時の閣僚だった女が拝聴したということの方を問題にしなければならないと思った。さらにこの元首相は「日本は台湾が中国の不可分の一部であることを尊重しなければならない」と述べ、大使の見解に「基本的に同意」と言ったとされている。これはとんでもないことだ。我々一般常識を持った国民から「宇宙人」と形容された男の発言を支那流にアレンジされて、これが日本国民の総意とされたら大迷惑だ。

 メディアは毅然として中国大使の暴言と、民主党政権時代の首相だった男と閣僚だった女が拝聴したことを報道しなければならないのに黙ったままだった。NHKや朝日新聞は「まったく同意」なのかもしれないが、それならそうと記事にし、ニュースとして報道すべきだ。

 「報道の自由度」などというものが発表されるたびに、日本の新聞報道の自由度は世界最低だといって大騒ぎするが、「報道しない自由」であるとか「見て見ぬふりをする自由」なら朝日新聞とNHKは世界一ではないのか。まったく、中国と聞いただけでへりくだることしか知らないメディアには猛然と腹が立った。

 万が一、中国の軍事力による現状変更が実行された場合、台湾有事は日本有事でもある。沖縄県の尖閣諸島や南西諸島が台湾有事に巻き込まれる。日本のEEZ (排他的経済水域)に中国のミサイルが着弾するのだ。これはまた日本の経済を死活的に左右するシーレーンも脅かされる状況になるということだ。どんなことがあっても、軍事力による現状変更という暴挙には反対し、「現状維持」を言い続けなければならない。中国の独善的な行動を制約する意味においても中国駐日大使の暴言は正確に報道されなければならないと思う。

 

◇ あったのか、なかったのか

 シンガポールで開かれた「アジア安全保障会議」で、日韓防衛相は18年以来続いていたレーダー照射問題で合意したという記事があった。18年12月、能登半島沖で海上自衛隊のP1哨戒機に韓国海軍駆逐艦がレーダーを照射した事件で、海上自衛隊はその際の動画を公開しているが韓国側は照射そのものを否定している。

 朝日新聞は<「レーダー照射」事実棚上げの決着>という見出しで、記事には「両国がまとめた再発防止策は事実認定を棚上げ」とあった。「あったのか、なかったのか」という事実認定を棚上げして、何を「合意」したのか、どうして「再発防止策」がまとめられたのか、この記事を書いた記者は疑問に思わなかったのだろうかという<?>マークが目の前にちらついた。アメリカの国防長官を真ん中にして両側に日本韓国の防衛相がにこやかに並んで収まった写真が掲載されていたが、最近、これほど腹が立つ写真も滅多にあるものではなかった。

 火器管制レーダーの照射はあったのか、なかったのか、答えはふたつのひとつしかない。自国の海軍の検証記録を信用するのか、改めて検証記録を提出すると公言したきりその後沈黙したままの韓国の言い分を信じるのか、いったいどっちなのだ。

 自衛隊を指揮統制しなければならない立場にある防衛大臣、君はどう考えているのか。

 

 だが問題はそこにあるのではない。「照射はあった」とするならば、そんな国と軍事同盟を結んではならない。友軍だと思っていたのに後ろから撃たれる可能性がある。アメリカの国防大臣に、後ろから撃たれる懸念のある国と軍事同盟を締結することはあり得るのかと訊いてみるが良い。彼は軍人だ、政治家ではないので正しく答えてくれるはずだ。

 「照射はなかった」とするならば、韓国艦艇からロックオンされたという、いわゆる“ガセネタ”を報告した海上自衛隊の哨戒機の機長と基地の司令、撮影動画の公開を認めた海上自衛隊の幹部職員と当時の防衛大臣は厳重な処分を受けなくてはならない。日本の世論を惑わせ、それよりもアメリカを間にした大事な同盟関係にある国の威信を傷つけた罪は重い。その処分内容も国民に明らかにされなくてはならない。

 

 とにかく、事実を明らかにしてもらいたいのだ。言ったのか言わなかったのか、あったのかなかったのか、新聞社の注釈など必要はない、解釈など知りたくもない、事実だけを正確に伝えてもらいたいのだ。

 起こった事実を正確に伝えるのがメディアの仕事の第一であるはずだ、と怒鳴っても井戸の中で反響するだけですぐに消えてしまう。水面に波すらたたない。まったく腹の立つことだ。