最近腹が立ったこと三つ

 

◇ 映画「オッペンハイマー」

 昨年のアカデミー賞で作品賞の他にいくつもの賞を受けたことを知って、だがたぶん日本では公開されないだろう、日本人好みのアカデミー賞受賞の金星より日本人の原爆アレルギーの方が強力だろうと漠然と思っていた。

 夜のゴールデンタイムに流された「オッペンハイマー」のテレビCMを観た時、本当に公開するのかと正直驚いた。それからこの時間帯にCMを流すという映画配給会社の無神経さに少し腹が立った。ロシアはウクライナに対して核兵器の使用を躊躇しないと恫喝しているし、四方を敵に囲まれてそれでも強硬姿勢を改めようとはしないイスラエルは核保有国だ。追い詰められたらイスラエルも核の使用を躊躇しないだろう。

 現実に一方が核保有国である国が戦争の当事国であるこの時期に、しかも「唯一の戦争被爆国」である日本で映画公開のCMがゴールデンタイムに流された。きっと反核団体や反戦平和を念仏のように唱える市民団体が配給会社にデモを繰り返したり映画館の前で座り込みをしたりして、映画の公開は社会問題化するだろうと思って見ていたがなにひとつの騒ぎも起こらなかった。

 改めて日本の反核兵器を叫ぶ市民団体の底の浅さを知らされたような気持になった。核拡散防止条約を締結せよとデモ行進はするが、映画の公開を止めようという活動には何の興味も無いらしい。まったく何という連中かと腹立たしく思った。「核兵器反対」はただ単に自民党政府に対する非難のネタでしかないということなのだ。

 この映画は広島市や長崎市でもロードショウ公開されるのだろか。毎年夏に決まり切った空疎なだけの宣言文を読みあげる広島市長と長崎市長に、この映画公開に関する感想を伺いたいものだと思った。

 地方の二つの都市の20万人の市民を一瞬に殺戮する原爆の投下を判断したアメリカ政府に、何の疑いもなくその開発に従事した責任者に、いったい何の言い訳があるというのだ。

 

◇ 定年後の再就職先

 朝日新聞は自衛隊が嫌いだ。だから箸の上げ下ろしのような些末なことにでもケチをつける。海上自衛隊トップが靖国神社の宮司に就任したことを政治面、社会面さらに「社説」でも、これは大問題だと取り上げた。「靖国と自衛隊 問われる距離」という見出しで、さらに「政教分離の視点から懸念も」と朝日新聞社御用達の識者にも語らせていた。

 自衛隊の幹部は特別職国家公務員だが、定年退職したらそれに「元」が付くだけで、定年退職後の再就職先まであれこれ言われる筋合いはないように思う。再就職先の靖国神社は名前こそ有名だが、いち民間の宗教法人でしかない。どのような転職先を選ぶのかは個人の自由であるし、その先が宗教団体だとしても職業選択の自由と信教の自由は憲法に明記されていることだ。

 自衛隊は憲法に違反する存在で、そのトップが軍国主義の象徴なような神社の宮司に再就職するなどトンデモナイというのが本音なのだろが、朝日新聞社でも定年を迎えた重役がテレビ朝日系列の製作会社に取締役とか副社長で再就職することは普通にあることだろう。再就職を斡旋した側とそれを受けた側には何らかの利益というものが伴うが、自衛隊と靖国神社には伴う「利益」などありようがない。

 幹部自衛官だから靖国神社に再就職などしてはならないというのは、明らかな職業差別であるしいち民間宗教法人を理由なく貶めている。こっちは良いがそっちはダメという身勝手な言い分には猛烈に腹が立った。

 

◇ 裁判所がそこまで言うか

 「同性婚訴訟」の札幌高裁の判決で、裁判官から憲法の読み方を、解釈の仕方を教えてもらった。日本の政治は司法立法行政の三権がそれぞれ独立しているものとばかり思っていたら、立法になり替わって司法が憲法本文の解釈を語ったのだ。これは著しく権限を逸脱している。憲法第24条一項の「婚姻は両性の合意」とある「両性」について、文言だけではなく、「目的も踏まえ、人と人との結びつきとしての婚姻をも定めている」と解釈すべきで、「同性婚を認めない現行の規定は同性カップルに社会的な著しい不利益を及ぼすだけではなく、アイデンティティーの喪失感など「故人の尊厳を成す人格が損なわれる事態になっている」とまで指摘した。そして憲法に「両性」とあるものを「人と人」と読み替えるべきであると言っているのだ。憲法第24条の「両性」は男性性と女性性という理解しかできない。男と女両方の合意のもとという、疑義の生じようのない分かり易い日本語で書かれてあるものをわざわざ拡大解釈などすべきではないし、法を司る立場である裁判所が「読み替えるべき」など言うべきことではない。

 問題はこの裁判所の判断に朝日新聞が大はしゃぎしたことだ。一面に「婚姻の自由 同性婚も」高裁「認めないのは違憲」という大見出しがあり、<「違憲の法」いつ正す>という見出しで、裁判所が示した「読み替えるべき」という判決を大歓迎した。

 おいおい、ちょっと待ってくれ。少し前に「安保関連三法案」を閣議決定した際に、「憲法の読み替えは決して許されない」「恣意的な解釈は許されない」と社説に書いたことを忘れたのか。

 自民党政府の「憲法解釈」には執念深く反対する朝日新聞が、司法の「憲法解釈」に拍手喝さいしている。あっちがダメならこっちもダメだろう。「憲法を護る」ことを社是としている朝日新聞が、憲法を「解釈」で変えることに何の疑問も持たないのか。まったく腹の立つことだった。