「密室殺人コレクション」その2 二階堂黎人・森英俊共編  原書房 01年8月初版 2400円

 

 二回目の今週は残りの、「カスタネット、カナリア、それと殺人(ジョゼフ・カミングス)」「ガラスの橋(ロバート・アーサー)」「インドダイヤの謎(アーサー・ホージズ)」「飛んできた死(サミュエル・ホフキンズアダムス)」の4編を紹介したい。

 

 「カスタネット、カナリア、それと殺人」。1962年のバナー上院議員が探偵の物語だ。バナー上院議員が活躍する物語は[299]「これが密室だ!(97.5)」(その1)で「湖の伝説」を読んでいる。

 今シーズン、ブロードウェイで大評判をとったミュージカルの作曲家キーン・スミスは、交際しているインぺリオ・ラミネスというプエルトリコ映画の人気女優から、プロデューサーからプレゼントされ部屋の中で飼っていた三羽のカナリアが何者かに毒を飲まされて死んでしまったという相談を、合衆国上院議員ブルックス・U・バナーに話している。

 プロデューサーのホープ大佐は大戦後にポルトガル沖の島で黄金郷を発見して百万長者になった。それを資金に映画製作に乗り出した。「第二のオーソン・ウェルズになるつもりなのです。脚本を書き、出演もし、監督も、撮影までする」という人物だ。撮影スタジオで殺人事件が起こる。スタジオのセットは大きな箱のような形をしていて、開いている前面にカメラ、左右に出入り口があるだけの簡単なもので、右の衝立の陰で男がインペリオのナイフで背中を刺されて死んでいた。その場面が撮影されていた。主演のインペリオの身体のどこにも刃物を隠せない。まるで透明人間の犯罪のようにみえた。撮影された映像を観ながらバナー上院議員がこの謎を解く。大佐がカナリア諸島のストリキニーネで財産を築いたことがすべての原因だった。

 カナリアと殺人は分かったが、カスタネットが分からない。カスタネットに関係しては、インペリオの「フラメンコだって踊るんだから」というセリフしかない。

 

 「ガラスの橋」。「密室」の歴史に残る名品中の名品だ。巻末の「二階堂黎人×森英俊「密室対談」<解説編>」のなかで二階堂が「この作品でUFOに言及しているが、当時、アメリカではUFOがものすごく流行った。ちょうどロズウエル事件とかの騒ぎで盛り上がっていた頃の作品」と言っている。「この作品にしても「五十一番目の密室」にしても、どうもこの人はミステリー作家をおちよくるのが好きなようで、しかも結末はすごくブラックですね」と言う森の言葉が印象として残った。

 

 「インドダイヤの謎」。1965年の作品だ。デュー・イースト警部はたれこみ屋から、世界的な宝石泥棒ミロントンが十万ギニーもするダイヤモンドを盗んだ後、<やぎと晴時計>という宿に泊まっているという情報を得る。<ヤギと晴時計>は<猛り狂ったヤマアラシ>という村にある。この村の近くには<絶体絶命>という小さな村もある。ミロントンはいたちのように悪る賢いフランスの泥棒だ。部下たちが宿を取り巻く。ミロントンの部屋は四階で飛び降りることもできない。階段を上り部屋の前で、観念しろ、もう逃げられないぞ。この建物は完全に包囲されている、と叫ぶとミロントンは中から拳銃を撃ってきた。弾を撃ち終わったミロントンを逮捕した。だがダイヤはどこからも出てこなかった。これでは捜査は失敗だった。そこに別の事件の現場に向かう途中だったセラリー・グリーンというアマチュアの犯罪研究家が現れ、二人の捜査で無事盗まれたダイヤモンドを回収した。

 

 「飛んできた死」。“三つの文書と一本の電報による物語”という副題が付いている。巻末の対談で、世界で最初の足跡のない殺人もの。コナン・ドイルがホ―ムズものを掲載していた時期の作品という紹介があった。この一編が発表された1903年は明治36年になるが時代の古さというものはまったく感じられなかった。

 第一の文書は「雑誌の記者ヘインズが休暇中に編集長に宛てた手紙」だ。事件の概要が書かれてある。昆虫学者のラベンダン博士と医学生のコルトンと三人で道に迷い砂の崖に出たところで砂浜に男が倒れているのが見えた。浜に出てみると沿岸警備員の男が死体の傍らに立って、この男は同僚のポールだという。死体は何か鋭利なもので刺されて殺されたように見えた。砂浜には人の足跡が一切なく、死体の側に五本の爪と踵のような足跡が一歩一歩砂浜の上に残されていた。殺された男と身を隠すことのできる崖の間にあるものは死んだ男が浜に向かって歩いた足跡と、巨大な爪の生物の足跡だけだった。

 三週間前、殺された警備員のところに食い詰めた曲芸師の従兄弟が助けを求めて来たが追い返した、曲芸師は泣き泣き去っていったということが分かった。また、殺された警備員と死体を発見した警備員は村の女を巡っての争いがあったことも分かってきた。ホテルに帰って現場でスケッチしたものを博士に見せる。一千万年前の白亜紀の爬虫類のプテラノドンの足跡に似ているという。広げれば20フィートはあるコウモリに似た羽を持ち、銃剣のような4フィートのくちばしをもっている。このくちばしなら人を殺せるだろう。また、現存する鳥類にはこのような足跡は残せない、五本の爪を持つ鳥も人を殺せるほど恐ろしいくちばしをもった鳥もいない。くちばしで人を刺し殺すことができるのはプテラノドンだけだ、と言って博士は新発見の論文作成にとりかかった。

 一本の電報は編集長に送ったものだ。「ヘインズが浜で謎の死を遂げた。心臓を一突きされた」。第二の手紙は「コルトンが父親に送った手紙」だ。ヘインズは沿岸警備員が倒れていた同じ場所で背中を刺されて倒れていた。そして三本目の文書は「コルトンの供述書」だ。砂浜の上に五本の爪をもった足跡が何箇所かあった。次の足跡を見ようとした時背後にうなりが聞こえた。続いてひどい衝撃を頭に受け倒れた。さらに「ラベンダン博士の説明」が付記されている。ヘインズの死体のそばにあった足跡は最初の沿岸警備員が殺された砂浜についていたのとまつたく同じものだが、五本指で踵がある鳥類は存在しない。それでプテラノドンという仮説を立てた。だが、とこの殺人の謎を解く。エッとばかり驚いてしまった。