「密室大集合」 その4   ハヤカワ・ミステリ文庫  E・D・ホック編  640円 84年3月初版

 

 「密室大集合」の最後のその4は、「箱の中の箱 (ジャック・リッチー)」「魔の背番号12 (ジョン・L・ブリ―ン)」「奇術師の妻 (J・F・ビアス)」「有蓋橋事件 (エドワード・D・ホック)」の4編を紹介したい。

 

 「箱の中の箱」。現場になった寝室で「みんなは私が妻を殺したと思っているが、私は妻を殺してはいない」と男が叫んでいる。殺された夫人の甥は、彼が叔母を殺した。叔母はこの寝室で殺された。寝室にいたのは彼だけだ。

 寝室に行こうと廊下に出たときに拳銃の音がした。ドアを叩いたが返事がない、内側から鍵がかかっていた。それでバルコニーの窓を割って中に入った。部屋の中では叔母が床に倒れ、彼は拳銃を手にして床に倒れていた。

ドアも窓も内側から鍵がかかっていたと証言した。事件のあった夜、屋敷には甥とその妹がいた。

 疑われた夫は、私はベッドでアラン・ポーの「盗まれた手紙」を少し読んで、それから寝入ってしまったと言うだけだった。妻が撃たれた時寝室は完全な密室状態で、犯行時この部屋にいたのは夫だけ。刑事たちはあれこれ外部犯の可能性について推理する。

 夫が寝る前に「盗まれた手紙」を読んでいたことを知った警部は、「殺人は殺人の陰に隠すのがいいんだ」と思い当たる。消音銃で妻を撃ち、二人が廊下に出るのを待って空に向かって銃を撃つ。ドアを叩いているときに窓の鍵を閉め、自分は睡眠薬を飲んで倒れる。犯行は歴然としている、だがあまりにも状況が当たり前すぎて何かでっち上げたような気分になる。このままだと夫を妻殺しで起訴できない可能性を心配する。

 

 「魔の背番号12」。サーファー・スタジアムで起きた不可解な殺人事件だ。探偵役は主審生活30年のメジャーの審判だ。“ハニー”リードが移籍して背番号6を要求した。6番はチームで永久欠番になっていたので難色を示すと、開幕日に6番をつけられないなら引退するとまで言い出す。何とか説得して背番号は12に決まった。この12番はチームにとって呪われた背番号だった。オープン戦が始まった。その試合で捕手がストライクの判定に抗議し退場を命じられた。今度は一塁のセーフかアウトでリードが抗議し、リードに退場が宣告された。七回の裏、監督が現れてリードが消えてしまったと言う。ベンチからロッカールームに向かう地下通路は鍵型になっていて、通路の出口にいつも座っている清掃係の老人はリードが通らなかったと証言した。審判室のシャワー室でリードの死体が発見された。審判室に行くにはこの清掃係の前を通らなくては行くことはできない。野球の審判が探偵役という珍しい設定だった。

 

 「奇術師の妻」。ミルドレッドが棺から姿を消したのは百人もの警官の前でだった。警察官退職基金の慈善興業の舞台で奇術師マーリンは妻のミルドレッドを棺に入れ、うなりをあげた丸鋸が棺を真っ二つするショーが始まった。目が眩むような閃光と爆発音の後、舞台で助手が「人殺し」と叫んだ。煙が晴れた時棺の中は空だった。助手の妻の妹は、この人が自分の奥さんを殺したのよと叫んだ。だが棺の中には血痕もなく空だった。会場を捜査している時に、死んだと思われた妻から夫の奇術師宛てに電話が掛かってきた。気が付いたらホテルの部屋にいた、自分にも訳が分からないという。夫婦は劇場の向かいのホテルに泊まっていた。

 舞台から消えたのは奇術師の妻なのか、助手で妻の妹なのか、死体が出てこなければ事件にはならない。この出来事を会場の観客だった警部が解決する。

 

 「有蓋橋事件」。ニュー・イングランドの田舎医者として開業した1922年のこと。初めての冬、ある男が四輪馬車に乗って雪の降りしきるなか有蓋橋に入って行き反対側から出てこなかった。男も馬車も消えたんだ。聞きたいかね? という書き出しで始まる。わたしはこの年にノースモントで開業した、と老人のサム・ホーソーン医師は語り始めた。

 雪の降るなか往診に行った。帰りの途中にもう一軒往診に立ち寄ってとハンクに頼まれ、案内するというハンクの馬車の後を追うことになった。途中、牛舎のところで、さっきハンクが通ったと声をかけられた。有蓋橋のところでハンクが待っているかと思ったが馬車はどこにもいなかった。橋に入る手前の雪の上にわだちがあった。橋の上にハンクが持って出たアップルソースのビンが割れて落ちていた。有蓋橋の長さ50フィート、橋の向こう側にはわだちの跡がなく、川には氷が張っていた。馬車とハンクが有蓋橋の中で忽然と消えたのだ。

 レンズ保安官が登場する。そして看護婦のエイプリルのことも「三十代の小太りの陽気な女性、町に来て最初の日に彼女を雇った」と書かれてあった。

 翌朝、レンズ保安官からの電話で起こされた。ハンクの死体が発見された。町から十マイル南で、馬車に乗ったままの姿勢で後頭部を撃たれていたと言う。馬の腹に焼け焦げた跡があり、殺され馬車に乗せられ馬に葉巻を押し付けやけどさせて馬が疲れて止まるまで走らせたようだ。ハンクの部屋を調べると、彼が熱心に読んでいたらしい「ハースツ・インターナショナル」の三月号があった。ホーソン医師はその中のホームズの「ソア橋」という小説を半時間で読み終え、ハンクがどうやってあの橋から消えたのか、考えが浮かんだ。

有蓋橋からどうやって馬車が消えたのか、それは書かないでおく。