墜落
ファミレスに入って窓際のテーブルに座ると、呼び鈴がないことに気づいた。隣のテーブルに乗っていたのを押して、その失踪をウェートレスに告げると、彼女がまるで小さな悲鳴のような声を挙げて、小走りで隣のテーブルの呼び鈴を持ってきて、幾度も謝り続けた。
物は言いよう。日本のサービス業界では、お客様に何らかの迷惑をかけてしまう時は、車で児童を轢いてしまったような、悲嘆に暮れている表情で慌しく謝るのは基本。ソフトドリンクにストローを入れるのを忘れたことで世界の終わりを招いてしまったように、「申し訳ございません!」と泣きそうになりながら繰り返す姿をうまく見せかけるのがポイントだ。それに対して、ミスを避けるのは二の次だ。見せかけさえよければ問題なし、実際の気持ちはどうのこうのというのは関係ない。
そう考えながら和風テリヤキピザを食べてしまい、デザートでも注文しようと、また呼び鈴を押した。奥の方から「ただいまお伺いしま~す」と、先のウェートレスの声が聞こえた。デザートを注文し、先のピザのお皿をさげるように頼んだ。彼女がそれを手に取ると、斜めになったお皿からフォークが滑り落ちてしまった。「ごめんなさい!」ベテランのように店の中を歩き回る彼女は意外と不器用なのかな?
とにかく僕は微笑み続ける。僕がアルバイトをして以来、客の側に回されるとどんなことがあっても必ず「どんまい」と言わんばかりに温かい態度を執る。実際に口にする場合も少なくはない。
例のウェートレスが戻ってくる。僕が頼んだのは、マウンテンチョコバナナパフェ。巨大なサンデーの上に、チョコケーキの一切れが綺麗に乗っているモノリス。或いは少なくとも、本来ケーキは上に乗ることになっているが、ウェートレスがパフェをテーブルに置くとケーキは揺れ、ピシャっと落ちてしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
「はは、どんまいどんまい。」出た。しかもなんと2回連発。
「すぐに新しいのを持ってまいりますので」
「いや、別にいいけど」
「いいえ、あまりよろしくないと思います。」
親切のつもりだったが、食卓に衝突して崩壊したケーキを見て口をつぐんだ。跳ね上がったチョコがいかにも不潔に見えたので、呑気にそれを食べようとした自分をみすぼらしくさえ思った。当然お客様にそれを食べさせるわけにも行かず、僕が不意に発言したことでむしろウェートレスの人を困らせてしまったと判った。新しい一切れが運ばれてきた時は深々と反省していた。