雪と水仙 | long island sound

雪と水仙

明日近所の映画館で「ALWAYS 三丁目の夕日」を観てから、帰っている最中に涙を拭き取るように眼鏡を外そうとしたら、手袋をはめていたのでグリップがなくて、つい落としてしまった。拾い上げて泥を払うと、左のレンズに罅が入っていたことに気づいた。


また引っ越さなければいけないようだ。19日まで荷物を纏めて家を出るように言われた。国際交流センターの先生によると、オカアサンが暫く入院するから俺の世話をすることが無理だそうだ。日本に来てから、引っ越すのはこれで6回目だ。


ホストファミリーからまだ何も聞いていない。オカアサンが病気で、そして胃に発生した腫瘍がその原因であることは前から知っていた。数週間前CTスキャンを受けに病院に行ったが、その結果については俺に教えてくれなかった。俺だって自分の病気について話させたくなかったが、病院から戻ったあの夜のオカアサンの顔を見たら、彼女に死刑が渡されたことがすぐに分かった。あの日から彼女の顔色がどんどん悪くなり、虚ろな目には元気がなくなった。それから朝ご飯はオトウサンが代わりに作ってくれるようになった。そのオトウサンから、朝目覚める時は胸が苦しくて起きられないオカアサンの話を何度も聴いた。彼は、同じ話を何度も繰り返す癖がある。


昨日オカアサンが、腫瘍の検査を受けにもう一度病院に出かけた。そしてその夜、俺が帰ったら、国際交流センターの先生に相談してと、彼女に言われた。あの時大体のことを把握していたが、その先生に会って話したら、リョウシンが具体的な日付を締め切りとして指摘したと初めて聴いた。そんなことは言いづらいのが分かっているけど、直接に教えてくれなかったことで傷づいた。先程の夕飯では、俺が家からでなければいけないことが話題に浮かばなかった。


これから寮に住むようになるか、それとも上智が提供してくれる、別のホストファミリーの家に引っ越すかの選択があったが、俺は寮生活を選んだ。それを聞いたら先生が少し驚いた。しかし、ホームステイ生活に失望したことをさておいても、深夜六本木でアルバイトをしていることを考えると、それを認めてくれるようなホストファミリーはまずいない。つまり、アルバイトを辞めない限り、本当は寮を選ばざるを得ないということだ。


一応この人たちとうまくやっていくように努力するつもりだったので、それができなくて残念だと思う。