long island sound 下 | long island sound

long island sound 下


oreint sign


自転車にまたがって力を入れて走る。風が背中を押しながら、イヤホンの音楽に漕ぐリズムを合わせて、眩しい太陽の下に燃えているかのように見える舗装を走る。何度も辿った道の上に思い出が走る。



orient point farm


オリエント・ポイントへ行く度、別荘を囲む森を貫く道から始まって、橋と電車の踏切を渡って、それから町と町を繋がせる道路に出る。大きな交差点に着くと、自転車道路はいきなり止まり、車と交じて思い切り漕いで渡り抜ける。渡ってから長い坂に上がって、海を沿って強い潮風を通じて加速して、その勢いで沼地を通す曲がりくねった道路を走る。それからイースト・マリオンという小さな町のメイン・ストリートを走って、農地の方へ行く。麦畑の穂を揺らせる微かな風は、オリエント・ポイントへ進めば進むほど海の匂いをする。そしてオリエント・ポイント、ロング・アイランドの東北の端にあるフェリー場に辿りつく。そこから州立公園に入って、海とカモメを眺めるともなく、人影のない細い道の行き止りまで行くと、太陽に漂白された熱い砂の上に建てられた子どもの遊び場がある。休日には子ども連れの家族は何人も居るんだが、平日の午後には、一人も居ない。唯僕と波打ちの音と大西洋とカモメ。家からオリエント・ポイントは約1時間半かかる。



orient point state park


2003年の夏、毎日その道を行き帰った。毎日必ず行ってきた。或る日、両親も居なかったし、そして月が明るかったから、真夜中にもう一度オリエント・ポイントまで行った。当日ひどい日焼けされた腕が涼しい夜風に吹かれて、木々に漏れた月の光に照らされた道をゆっきりと辿った。でも海沿いの長い右に曲がるカーブに精一杯加速して、坂道を上がったりして、オリエント・ポイントの広い浜に着いたら汗を掻いていた。輝いていた白い満月が空にぼんやりと浮かんだ。漂白されたみたいな砂の上に寝転んで、星々を見た。

いつの間にか居眠りをした。目が覚めると、2時半に近い時間だった。45分寝ていた。



beach water


この頃は夢を見てばかりいる。起きていても夢を見ているのだ。でもそろそろその夢を現実にさせる時間だ。過去の思い出は大切だ。でも過去ばかり見ると、未来に背を向けてしまう。未来とは怖いものだ。前に進むと戻れなくなるんだから怖い。


2004年にも、夏休みをロング・アイランドで送ることにした。高校を卒業して、去年のように体力と日本語の能力、平穏なところで鍛えると思って、初夏の朝早く電車に乗ってロング・アイランドに出発した。雨ばかりの夏だった。泳ぐ機会は少なくて、雨でオリエント・ポイントまで行く気もなかった。偶に興奮して真夜中にジョギングしたが、大体の時間を家の中に潰していた。その為勉強に熱中できなかった。そして毎日2003年の夏の日々を懐かしでいた。



state park water


一生涯が経っても、あの時ロング・アイランドで味わった幸せを二度と見つけないかもしれない。ニューヨーク行きの終電で、外を眺めていた途中思った。


僕は昔から車に乗るのが好きだった。広々と無限に続く道路を見るのが楽しみだった。儚く目の前を横切る光景は、過ぎてしまっては二度と見ない。でも行き先へ進まなければ何もかも無意味だ。ニューヨークの郊外のあっという間に視界から消えてしまう灯を眺めながら思った。いつまでも夢を見ていられない。過去に戻れないから前へ進む。


2年前の夜空の下で、砂浜で立ち上がった自分をこころの中に抱えて、誓った行き先まで歩む。



my bike