接触

 

 アンドレイとラウラの家族は車に乗ってブステナへ出発した。
 彼等は渋滞に巻き込まれることなく、スムーズに移動出来、1時間半後にブステナに到着した。
 
 ブステナに来たのが初めてであるラウラは、すっかり観光気分になっていた。
 アンドレイは昨日もブステナに来た訳だが、昨日は観光する暇がなかったし、今日はラウラが一緒なので、あちこち観光したいと思っていた。

 

「ねえ、アンドレイ。今日はあちこちブステナを観光しない?」
「実は僕も同じことを言おうと思っていた。」
「それじゃあ、用事が終わったら観光しましょう。ところで、ブステナのどこに薬を作ってくれた人達がいるの?」
「彼女達は山の屋敷にいるよ。」
「その人達って綺麗?」

 

 アンドレイはユリアのことを思い出した。
 
「え? あ、うん。」
「あ、うんって…アンドレイ!」
「え? 何? どうしたの?」
「何でもないわよ!」

 

 ラウラの反応に戸惑いながらも、アンドレイはラウラの家族を山の屋敷に案内しようとしたが、そろそろ昼時だったので、彼等は通りかかったレストランで食事をすることにした。
 その時、彼等は教会の前に人溜まりが出来ていることに気付いた。
 
「ねえ、アンドレイ、あそこに人が沢山集まっているけど、皆何を見ているのかな。」
「さあ? 何だろう。ちょっと覗いてみようか。」
「そうね。お父さん、お母さん、先にレストランに入っていて。」

 

 そう言うと、アンドレイとラウラは人溜まりの中に入って行った。
 
 皆が見ていたのは、アンカと車椅子の老人だった。
 老人はアンカにすがるようにして助けを求めている。
 すると、アンカは老人の手を握って話しかけた。
 
「…あなたは歩けますよ。」
「本当ですか。」
「本当です。歩いてみて下さい。」

 

 すると、老人は車椅子を降り、歩きだした。
 その様子を見た人達は、奇跡だと言って感動している。
 しかし、アンドレイとラウラは彼等が何をしているのかよく分からない。

 

「アンドレイ、これって何だと思う?」
「さあ、全然分からない。レストランに戻ろうか。」
「そうね。」

 

 そう言うと、アンドレイとラウラはレストランに戻って行った。
 その様子をアンカはじっと見ていた。

 

 レストランに入ったアンドレイとラウラは、ラウラの両親がいるテーブルへ行った。
 ラウラの両親はすでに注文を済ませており、テーブルにはパンやパスタ等が置かれている。
 そこに10歳くらいの少年がやってきて、アンドレイ達に話しかけた。

 

「お腹が減っているんです。」

 

 すると、ラウラの母アレクサンドラが少年に言った。

 

「お腹が減っているの? じゃあ、パンを分けてあげるわ。」

 

 少年はパンを受け取ったが、不服そうである。
 少年の目的は金だった。
 少年の背後には悪い大人がいて、少年に金を渡しても金は大人の手に渡るだろうと思ったアレクサンドラは、わざとパンを分けてあげると言ったのである。
 パンをもらった少年は、別のテーブルへ移動した。
 この国は治安が良いとは言えず、度々こういうことが起こる。

 

 少年が去った後、今度はアンカがアンドレイ達のテーブルにやってきた。
 アレクサンドラがアンカに話しかけた。

 

「…あなたもお腹が減っているの?」
「いえ、お腹は減っていません。」
「あら、そう。お金は上げないわよ。」
「お金もいりません。」
「お母さん、違う。彼女はさっき教会の前で何かしていた人よ。」
「え? ああ、そうなの。ごめんなさい。」
「気にしないで。それより、あなた達、昨日、山の屋敷でアンデッドの薬をもらわなかった?」

 

 アンドレイはアンカの言動に少し驚いた。

 

「そうだけど、何で知っているの?」

 

 アンカはラウラを指差して言った。
 
「薬を飲んだのは彼女でしょう?」
 
 アンドレイは不思議に思った。
 何故、この少女はラウラが薬を飲んだということが分かったのだろうか。

 

「君、さっき、教会の前で何かやっていたし、実は超能力者なんじゃないの?」
「そうよ。私には病気や怪我を治す力があります。そして、生きている人と死んでいる人を見分けることも出来ます。それより、あなた達はすぐにブステナを発つべきです。」
「え? どういうこと?」
「アンカ、そこで何をしている?」

 

 今度はコドルツ神父がアンドレイ達のテーブルにやってきた。

 

「神父…何でもないわ。この人達が物乞いをする少年に絡まれていたから助けたの。」
「そうか。ところで、先ほどの老人が君を探していた。お礼がしたいとのことだ。」
「分かりました。すぐに教会に戻ります。」

 

 そう言うと、神父とアンカは教会に戻ろうとしたが、ラウラが引き留めた。

 

「ねえ、ちょっと待ってよ。すぐにブステナを発てって、一体どういうこと?」

 

 神父はラウラの言動にピクリと反応した。

 

「アンカ、彼等が薬を受け取った人達か。」
「神父…。」
「…誰が薬を飲んだのかね。」

 

 ラウラは堂々と答えた。

 

「私です。彼が私に薬を飲ませたの。とんでもなく苦かったわ。」
「そうか…。君達は副作用の話を聞いているかね。」
「聞いているわ。でも、今回私が飲んだ薬には副作用なんてないわよ。私にぞっこんな彼の血が使われているもの。」
「君達は本当に親しい仲なのかね。」
「あら、疑うの? 証拠を見せましょうか。」

 

 そう言うと、ラウラはいきなりアンドレイを抱きしめて、キスをした。

 

「…君達は未成年ではないのかね。」

 

 ラウラの父ティビが答えた。

 

「そうです、神父。彼等は未成年ですが、いつもこんな調子です。お恥ずかしいところをお見せしました。しかし、これで分かって頂けたでしょう、彼等は本当に親しい仲だということが。」
「ところで、君達は何故ブステナに戻ってきたのかね。薬を手に入れたのだから、もうここには用がないだろうに。」
「薬を作ってくれた方達のところへ娘を連れて行くことになっています。ブステナに来たのはそのためです。」
「アナマリアめ…彼女は一体何を考えているのか。よし、私も同行しよう。彼女に言いたいことが山ほどある。アンカ、君はどうする?」
「私も行きます。でも、その前に用事を済ませないと。」
「用事? ああ、そうだった。老人が君を探しているんだった。では、君は後から屋敷へ来なさい。私はこの人達と一緒に屋敷へ行く。」

 

 こうして、アンドレイ達はコドルツ神父と接触してしまい、神父と一緒に屋敷へ行くことになってしまった。