コドルツ神父


 ブステナの教会。
 ここには珍しい花が多く植えられており、アンデッドの薬の材料となる黄昏花も植えられている。
 花を育てているのは、この教会の神父コドルツ。
 
 神父は村の老婆からある話を聞き、状況を確認するために山の屋敷へ向かっていた。
 今日の昼頃、『腕の良い医者』がいる屋敷を探している人達がブステナに来ていたという話である。
 
 屋敷に着くと、神父はドアをノックした。
 すると、ユリアの祖母アナマリアがドアを開けた。
 
「おや、神父じゃないか。元気にしていたかい。」
「アナマリア、今日、誰かここに来なかったか。」
「ああ、来たよ。」
「彼等は何をしにここに来た?」
「大した用じゃないよ。病人がいるから薬をくれと言われただけさ。」
「病人?」
 
 そう言うと、神父は屋敷の周りを見渡した。
 そして、黄昏花の花びらがちぎられた形跡を見つけた。
 
「アナマリア、病人ではなく死人の間違いではないのか。」
「そうとも言うね。」
「ふざけないでくれ。君はまた人を襲う魔物を作りたいのか。」
「神父、薬を飲んだ者は必ずしも魔物になるとは限らないよ。ユリアだって魔物になっていないだろう?」
「私は薬を飲んだ者を再び眠りにつかせなければならない。」
「あんたは相変わらずだね。」
 
 このままアナマリアと話しても仕方がないと思った神父は、ユリアと話そうと思った。
 
「ところで、君の先祖はどこだ。」
「先祖?」
「ユリアのことだ。」
「彼女は旦那の墓参りに行っているよ。」
「彼女と話をしてくる。」
 
 そう言うと、神父は山の奥へ向かった。
 そこにはひっそりと建てられたお墓がある。
 
 お墓に着いた神父は、お墓の前でたたずむユリアを見つけた。
 
「ユリア。」
「神父、どうしたのですか。」
「今日、君達は黄昏花の花びらをちぎってアンデッドの薬を作っただろう? これで君の同胞がまた誕生する。」
「同胞?」
「君と同じアンデッドが誕生するということだ。いや…厳密には君と同じではないかもしれない。君は人を襲わないが、新たに誕生するアンデッドは人を襲うかもしれん。」
「どうしてそう思うのですか。」
「故人と親しい関係にあった人間の血が含まれているアンデッドの薬には魔物化の作用がない。だが、人間とは軽薄な生物だ。親しいと思っていた人間が実はそうでなかったということはよくある。だから、教えてくれ。誰に薬を渡した?」
「昔、私は夫の血が含まれた薬を飲みましたが、魔物化しませんでした。」
「それは君達夫婦が本当に愛し合っていたからだろう。それは素晴らしいことだ。しかし、世の中の全ての人間が君達と同じという訳ではない。現に、私はこれまで魔物化したアンデッドを何人も見てきた。」
「それで、あなたはどうしたいのですか。」
「薬を渡された人間を見つけ出し、薬を飲んだ者を再び眠りにつかせる。」
「神父、世の中は理不尽です。私は16歳の時に夫と出会い、18歳で結婚し、20歳で病死しました。私達はたった4年間しか一緒に過ごせなかったのです。私達はもっと長い間一緒に過ごしたかった。だから、夫は私にアンデッドの薬を飲ませました。おかげで、私達は神から与えられた時間よりも多くの時間を一緒に過ごせました。」
「…一つ教えてくれ。君の夫が亡くなった後、君は長い間独りで過ごしてきた。今は君の兄妹の子孫であるアナマリアを祖母ということにして彼女と一緒に暮らしているが、彼女ももう歳だ。いずれ、君はまた独りで過ごしていくことになるだろう。今後、君はどうするつもりなのか?」
「夫が老死した後、私は一人取り残され、長い間寂しい生活を送りました。アナマリアが老死すれば、私は再び寂しい生活を送っていくことになるでしょう。私は今後も夫のお墓を見守りながら、ただ過ごしていくだけです。」
「そうか…。とにかく、私は薬を渡された人間を見つけ出さないといけない。それでは、失礼する。」
 
 そう言うと、神父はその場から立ち去った。
 そして、神父の姿が見えなくなった後、ユリアは夫のお墓に話しかけた。
 
「あなた…私はあなたがしてくれたことを嬉しく思っています。愛している人はいずれ老いて死にます。しかし、愛している人と一緒に過ごした日々は、大切な思い出として、取り残された人の中で永遠に生き続けることでしょう。」