私も、と言いたかったのに、勇気のない私は、未だ言えていません。

彼にはあの後、2回ほど会いました。ピンポーンとインターフォンが鳴ると、はーい!と最近は、息子が出たがり、

ママ!抱っこして、僕が受け取りたーい!

となって、バタバタ、話す隙もありません。

でも、息子に荷物を渡すときの彼、いつもよりにっこり笑っていて、本当に素敵。いい男が子供に笑いかける顔なんて、反則ですね。こんな顔が見れてラッキー、なんて思ったりして。

息子が生まれてから気付いたのですが、息子といると、若いお兄さんから、高齢のおじいさんまで、見ず知らずの男性に、優しくしてもらうことが多いです。息子が愛らしいから、というのが一番の理由かもしれませんが、私はそれだけが理由ではないように感じていました。どうしてだか、彼らは私に母を、息子に自分を重ねているんじゃないかと思って。

男性にとって、母親というのは特別なものなんでしょうね。以前、美容師の彼が、お母さんをすごく大切にしていました。シングルマザーだったこともあるかもしれませんが、はっきり、彼女より母親のほうが大事、と言っていましたから。彼が私に優しくしてくれるのも、息子がいるおかげでしょうか。

今日、改めて彼と二人きりで顔を合わせたのですが、(息子はテレビに夢中だったので)彼は、なんだかよそよそしくて。

荷物の受け渡しをする、ほんの少しの時間ですが、いつもなら、じっと見つめて、笑顔を向けてくれるのに、今日は全然笑ってくれませんでした。

お兄さん、あの、

なんて言えない私は、お疲れ様です、としか言えませんでした。彼は、私がドアを閉めずに見送っていると、必ず振り返って会釈してくれるのですが、今日は、じっと下を見て、振り返らずに行ってしまいました。

嫌われちゃったかしら。

どうしよう、と思ったけれど、そもそも、彼が私をどう思おうと、私達の関係は何も変わりません。愛していてもいなくても、どうせ。

彼とどうこうなれる仲じゃないことなんて、よくわかっていたはずなのに、それなのに。