サロン経営者の彼女とランチに行ったとき、彼女は意外と受け身で、包容力のある、年上の男性が好みだと話していました。好きな男に染められたいんだと。

私は、男に染められたいと思ったことなんて、全然なくて、包容力なんて、むしろ私のほうが持ってるわ、くらいに思っていました。

そのとき、昔、手が震えるほどいい男と、食事に行ったことがあって、彼がそのとき、そんな話をしていたのを思い出しました。


どうせ染まるなら、綺麗な色に染まれよ。


彼とは、私がまだ大学生の頃、インカレの飲み会で出会いました。彼は、OBとして参加していて、私よりも5歳上、25~26歳でした。

今思うと、わあ若い、って感じなのですが、あの頃の私は、彼のことすごく大人で、少し怖いとすら感じていました。なにせ彼は、長身で、鷲鼻で、バイトは歌舞伎町のホストで、スロットで稼ぐ、という輩でした。そのくせ国立大の院生だったので、博識で語学が堪能でした。

私は左手が震えるのを右手で抑えながら、彼と話したのを覚えています。怖がっているのを悟られたくなくて、ちょっと強気な、生意気な感じで話しました。

彼は史学部で、英語と仏語とアラビア語が趣味だと言うので、私は、

楔形文字も読めるんでしょう?あら、読めないの?

と聞いたら、彼は面白そうに笑って、私のことを気に入ってくれたようでした。

彼はその飲み会のあいだ、私の服とか、アクセサリーとか、当たり障りのないことを終始誉めてくれました。

そういった経緯があってか、膝が当たったとき、彼は私に気があると、すぐにわかりました。頭のいい人って、マニュアル通りなのね、って。今思うと、彼も若かったので、経験値を埋めるのに、それしか方法がなかったんだろうけれど。

それで、連絡先を交換したんだったと思います。けれど、彼から連絡が来たのは、それから数ヶ月経ってからのことでした。