クリスマスイブの朝


ここは大邱のホテルのスィートルーム


閉じた瞳のまま、自分の隣を掌で探る男

しかしその掌はシーツの上を滑るだけ…

『んっ…?…』

重い瞼を開け隣を確認する

『そうだ…昨日…』


僕はイ・シン、この国の皇太子が仕事だ
22歳の独身
この年で独りとは、我が国の歴代皇太子の中では前例にない

だからと言って、恋人がいないわけではない

一応、秘密の恋人だが…


昨日の事を思い出しながら、ベッドに重い身体を起こしミネラルウォーターを流し込んだ

そこに…

♪~~♪~~

『なんだ?朝っぱらからギョン…』
明らかに不機嫌な声のシン

『シン、大変だ!!…事故だ…』

『事故……』

その瞬間、僕の頭の中は真っ白になった

『おいっ…シン…』


プチッ


彼女の残り香…
昨日もここで愛し合ったばかりだ…
なのに、このまま朝まで泊まっていかないことで喧嘩になった
お互いに歩み寄れず…違うな…
僕の我儘だ…
いつも傍にいてほしい…
クリスマスイブなのに…
イブを一緒に過ごせない恋人なんてあり得ないだろ
なのに彼女は
「クリスマスはパーティーでハードスケジュールでしょ」
それが毎年の口癖のように…
その言葉は僕の感情を逆撫でする
「それは僕の仕事だからだ。僕と過ごすのは嫌なのか?…」
「そうじゃないわ。そうじゃなくて、身体も心配だし、マスコミもいるから…」
「だったら簡単だ。僕たちの事を公にすればいい。高校の時に既にプロポーズしていたと…」
「でも、それは相応しくなるまで待ってって約束だったはず」
「相応しい?…僕に相応しいってなんだ?…そんな事、誰にも言わせない」
そうだ…いつものケンカ…
明日になればお互いに歩み寄り、結局いつもの二人になる
だから、今日もそうなるんだと思っていた
なのに、なのに…
君は僕の目の前から消えると言うのか…

馬鹿な…
あり得ない…
許さない…

君は僕の隣にいなきゃダメなんだ…

僕は身支度を整え、ホテルの部屋を飛び出した

『殿下、どちらに…?』

『戻る』

『しかしながら、これから本日の公務が…』

『キャンセルだ』

『しかしそれでは殿下…』

『一刻を争う』

『殿下…』

『コン内官、すまない』

僕は一言だけ詫びをいれると、コートを翻して歩みを早めた

EVを降りロビーに、そしてタクシーに乗り込む
ここから一番早い移動手段はKTXだ
彼女から聞いていた
「くすっ、皇子様が電車やタクシーで移動なんかしたら、国民の皆さん驚くでしょうね」
こんな時でも隣にいるかのように彼女の笑顔が浮かぶ
「昔、プチ家出で電車に乗ったな…」
「くすくすくす、そんな事あったんだ」
耳に甦る彼女の声色
彼女と過ごしてきた時間のひとこまが甦る
こんな時にも…

車内はかなり混んでいた
『…そうだったな…今日はクリスマスイブだったな…ふっ…』
自分でも可笑しくなる
皇太子と言っても、こんな時どうすることもできないなんて…
当たり前だ…皇太子なんて所詮、名前だけ…
同じ人間で、特別な事など何一つない

『あの~、失礼ですが、もしかして…』

車窓を眺めながら彼女の事を思い出していたとき、通路から声をかけられたと気付き振り向いた

そうか…今日は変装してないからな…
まぁ、サングラスだけはしているが…

『あの~皇太子殿下ですか?』

『…そうですが…』

『やっぱり…でも、何故KTXに?』

『僕も皆さんと同じ国民ですからね、電車だって普通に乗りますよ』

『えっ?…そ、そうなんですか?これから、ソウルに戻るんですか?』

『そうです。今日はクリスマスイブですからね』

『じゃ、誰かと待ち合わせ…とか?…ですか…』

『いえっ…(ギュッ…握り拳を作るが、皇室スマイル)彼女が遠くに行ってしまわないように捕まえにいきます』

『彼女…ですか?』

『えぇ、僕だって22歳の男です。好きな女性はいます』

『そうなんですね。でも、遠くに…って?』

『すみません…これ以上は…』

『いえ、こちらこそ失礼しました。彼女さんと上手くいったら是非発表してくださいね。国民のひとりとして嬉しいお知らせを待っています』

『ありがとう…』

おそらく…いや…このやり取りもKTXに乗ってる事も、もうネットに投稿されているな
到着する頃はきっとマスコミがいる…

bu~~bu~~

ギョンからのメール

「病院は王立病院だ」

おい、ギョン…
何故病院だけの連絡なんだ?
容態はどうなんだ?
もしかして、オペ中なのか?
難しいのか?
危険なのか?
それとも…

くそっ…考えたくない事まで余計に考えてしまう

しかし、そうこうしているうちに、駅に到着した
マスコミが待ち受けていようと、そんな事関係ない
先を急がなければならない

ドアが開くと同時に、長身でブラックのロングコートにサングラスの男が降り立ち改札に走る
「皇族は走ってはいけません」
そんなの関係ない…
僕は今、イ・シン…ただの一人の男だ

ただの男でも容赦ない記者たちは気付き、後を追いかけてくる

改札からタクシー…と頭の中にシミュレーションしていたが、見慣れた顔を捉えた

『シーン、こっちだ』

停めてあった車の助手席に乗り込む

『出すぞ、シン…』

『ギョン…何故いる?』

『あぁ?…KTXに乗ってるって一気に拡散されたからな。どうせ、マスコミだっているだろうと思ってな。来てみたらバッチリ!俺って最高だろ』

『そんな事より、容態は…容態はどうなんだ?』

『今、ICUだ…』
急に声のトーンを押さえて話す

『そんなに酷いのか?…』

『…んっ……』

いつも饒舌のギョンが黙る

シンもそれ以上聞く事を戸惑った
「そんなに酷い怪我なのか…それとも意識がないのか…」と……

『おいっシン、マスコミがついてきてる。巻くか?』

『構わない。一刻を争う』

『そうか…なら、跳ばすぜ』

スピードを上げたギョンの車を必死に追いかけるマスコミ

さながらカーチェイスのようだ

『ギョン、お前まで事故るなよ』

『当たり前だ。ギリギリ安全運転だ』

ほどなく王立病院のエントランスに横付けされた車

助手席から飛び出すシン
ICUに向かって駆け出す(皇族じゃなくても病院内は走っちゃダメよ~)


【ICU】

ヴィーン…

『チェギョン!!』

自動ドアが開いたと同時に入室してきた長身のサングラス男が誰かの名前を叫び、その場にいあわせた医師や看護師は驚いてその人物を注視した

注目の的となったシン

近くにいた看護師が恐る恐る声をかけると同時に聞き覚えのある声がした
『あの~』
『シン君…』

声のする方に振り向くや否や、駆け寄り抱き締める

『意識があるのか?』

『ふへっ?…』

『事故に合って、ICUに運ばれたと聞いた。だから意識不明かと…』

『意識不明じゃないよ。ここと(額に貼られた大きな絆創膏を見せながら)あと、脚がね…』

チェギョンの視線が脚に降りるのと合わせて視線を下げるシン

『折れちゃったみたい…』
ギブスで固定された足首

『そうか…それ以外は大丈夫なんだな』

『うん…で、でも、シン君…周りの皆さんの視線が…』

ハッと冷静になるシン

『失礼しました』

『殿下、私がチェギョンさんの診察を致しましたハンです。(チェギョンさんが運ばれた時に未来の皇太子妃になる方と伺っておりましたので…と、シンの耳元で小声で話すDr.ハン。シンが心配のあまり、チェギョンには内緒で身辺警護を民間のセキュリティに依頼していた。そちらからの情報だ)』

『そうですか。ありがとうございます。で、容態は?』

『先ほどチェギョンさんが話された通り、額の傷と足首の骨折です。精密検査も行いましたので、ご安心下さい』

『ありがとうございます。じゃ、連れて帰っても大丈夫ですね』

『はい。ただここ2,3日は頭部の打撲もありますから安静にして下さい』

『じゃ、帰るぞ。チェギョン』

そう言うとシンはチェギョンを抱き上げた

『ちょ、ちょっとシン君…』

『安静に…だ。チェギョン、暴れるな』

『で、でも…』

チェギョンの抵抗はお構い無しに、シンはそのまま廊下を歩いた

すれ違う誰しもが振り返る

『ねぇ、シン君…目立ちすぎ…』

『関係ない』

『でも~』

『チェギョンが消えてなくなったかと不安だった…』
お姫様抱っこのチェギョンを引き寄せ耳許で安堵したかのような声色で話すシン

『…シン…君…』

『だから、もう僕を不安にさせないでくれ…
・・・・・・・ me?
・・・・・・・you.』


【王立病院の玄関前】

駅から追いかけていたマスコミをはじめ、玄関前には多くのマスコミが押し寄せていた

そこにチェギョンをお姫様抱っこのシンが現れ、宮の車が横付けされシンとシンが抱き上げていた女性が乗り込んだ

「殿下、何故王立病院に?」
「殿下、そちらの女性はSNSに上がったKTX内でお話された女性ですか?」
「殿下、今日の公務をドタキャンされたのはその女性のせいですか?」

記者の質問とカメラのフラッシュが容赦なく浴びせられる

シンはチェギョンを座席に降ろすと再び車を降りた

そして

『国民の皆様、お騒がせして申し訳ありません。彼女は僕の明日への道を照らしてくれる人です。後程、会見を開きます』

それだけ言うと一礼して再び車に乗り込んだ


【宮】

『只今、戻りました。勝手な行動をしたことお許し下さい』

『太子が考えもなしに、あのような行動をするはずはなかろう…とは思ったが、少々驚いたのは確かだ』

『申し訳ありません』

『太子が公務を蔑ろにしてまで会いに行った者を娶るのか?』

『はい。何か問題でも?…高校生の時から付き合いしていたのはご存知のはず。プロポーズを受けてもらい、二人の間で結婚はタイミングだけだったんです。もしかして、公務をドタキャンしたことで王族会から何かありましたか?』

『王族会…それは心配ない。太子の大切な者が何故怪我をしたか聞いておろう』

『はい。老婦人を助けたとか…』

『その、老婦人は長老の令閨だ。王族会は何も言えまい』

『では…お許し下さるのですか?』

『許すも何も、いつ婚姻したいと言い出すか、待ちくたびれたわ。皇太后様に至っては、先に皇孫でも良いと仰る程だ。早く発表しなさい』

『ありがとうございます陛下』


カシャカシャカシャ…

『これより皇太子殿下の記者会見をはじめます』

『皆様、お集まり頂きありがとうございます。
私イ・シンは本日、予てよりお付き合いしていましたシン・チェギョンさんと正式に婚約致しましたことをご報告致します』

『では、何故今日病院に?』

『それは彼女が事故に合ったと連絡があったためです。突然、公務をキャンセルしたことはお詫びいたしますが、彼女の許に駆け付けたかったからです』

『先ほど殿下は病院前で「僕の明日への道を照らしてくれる人」と表現されましたが具体的に教えて下さい』

『彼女との出会いは高校で同じクラスになった時です。当時の僕は悩んでいました。自分の立場に。そんな僕の気持ちを理解してくれ、そして励ましてくれ、癒してくれる彼女は僕の光でした。そんな彼女を僕が望むのは必然でしたが、彼女は僕の立場を考えてあくまで友人のスタンスでした。それでも僕は彼女を諦められず秘密の恋人になってもらい、プロポーズもしました。彼女は自分が庶民と言うことを気にして、「相応しくなるまで待って」と言われました。彼女は王立大学を卒業し今、宮内庁で働いています。僕にはもう…いえ、最初から相応しいんです。今日の事故によって、やはり僕の隣は彼女だけだと…』

『ありがとうございました。最後にプロポーズの言葉を教えて下さい』

『高校生の時は、ただシンプルに「結婚しないか?」でした。病院から戻る時にもそのような事を言いましたが、今、考えると魅力ないですね…全く…』

シンが恥ずかしそうにハニカんだ様子から幸せな事は十分伝わっていた。

『ありがとうございました。次は是非お二人で会見をお願いします』


【会見終了後、東宮 シンの私室】

『チェギョン…』
名前を呼ぶと同時に抱きしめる
『シン君…もう…』
チェギョンの唇を一瞬塞ぐ
『もう…なんだ?』

『結婚のこと…』

『んっ?イヤなのか?』

『そうじゃなくて…』

スッ…
チェギョンの目の前に差し出された薔薇の花束と花束の中に封筒が…

『これは?』

『クリスマスイブだからな。愛の告白だな……』


《朝日にふと目を覚ます度
全て消えてないか…と怖くなる
永遠だと信じていた
そばにいるこの幸せも

変わりもしない
消えもしない愛で
明日への道 照らしてくれた

僕のために生きる
その優しさを
言わなくても感じてるんだよ
これからは僕が
この手で守るから
世界でひとりの人を
Always next to you

繰り返した出会いと別れ
その記憶が不安にさせるけど
躓いてもその笑顔に
支えられ生きてきたから

たとえばどんな壁に阻まれても
この思いで乗り越えられる

ただ隣にいたい…
この愛しさを
どうすれば伝えられるかな?
いつかその答えを
きっと届けるから
世界にひとりのひとへ
Always next to you

生まれたあの日から
注がれた愛を必ず
幸せに変えるから

かけがえのない
その優しさを
言わなくても感じてるんだよ
これからは僕が
この手で守るから
世界にひとりの人を
Always next to you

心配ないから
この手で守るから
世界でひとりの人を
Always next to you》
(JUNHO from2PM ♪Next to you♪より)


『チェギョン、サラン…
Would you marry me?
Always next to you.』

シンは膝をつき、チェギョンに小さな箱を差し出す

既に涙でぐしゃぐしゃのチェギョン

『私も…私もシン君の隣にいたい』

シンの首に腕を回すチェギョン

『ありがとうチェギョン。最高のクリスマスだ』




チェギョンは怪我が治っても、もちろんそのまま東宮に…シンの隣にいつもいることになったのはもちろん、皇太后様にも願い通り、少し遅れてサンタさんからのクリスマスプレゼントが届いたとか~
(それはシン君サンタかなぁ⁉️)


Happy Merry Christmas


【Fin】



皆様~~ミアネ~~m(._.)m
こんなにも、駄文な長文(^o^;)
読むのも疲れるわ、時間だけ過ぎたぞ~(((((゜゜;)お叱りはごもっとも~~

もう、お気づきの方もいますよね。
はい。そーですハート
愛するラブラブJUNHOハートのこの歌ブルー音符がモチーフって…歌詞全部載っけてるし…!Σ(×_×;)!
でも、この世界観でカキカキφ(..)したかった!?って、出来てたかなぁ(´・ω・`)?

複数話にするにも、分けるところもないし、ただただカキカキφ(..)で、こんな文字数になってしまったぁφ(゜゜)ノ゜皆様のお目汚しだわ~( ノД`)…

クリスマスの貴重なお時間をお付き合い頂きましてありがとうございました_(._.)_