【3年前】

僕が帰国するより前に僕のスキャンダルが国内を騒がし、帰国した僕への関心はその一点に集中した。
きっかけをつくったのは僕を追いかけていたパパラッチ。
「僕には恋人がいる」
僕が公言したわけではないが、その噂を金にしたいパパラッチは高校入学から僕をずっと追いかけ回していた。



『太子、この記事はどういうことか説明しなさい』

帰国した直後、皇后様に呼びだされた

目の前に差し出された新聞記事の見出し


【国内で秘密の恋人を連れ、海外では公然の仲!!】



『・・・・』

『何も答えないのは肯定なのですね』

『事実ではありません…』

『事実ではない?と申すか?では、これは接吻ではないと?国民にもそう説明すれば皆納得すると思うか?』

『…彼女とは何もありません。皇后様もご存じなはずです。僕が大切なのは…』

『何もない者と接吻とは…』

『彼女とは同級生で僕の友人の友人でしたので、話をする位はありました。しかしそれ以上の感情は僕にはありません。なぜ彼女がタイに来たのか?なぜ彼女から電話をかけてきたのか?僕にはわかりません。
ただ呼びだされただけで、でも「こんなことはしないでもらいたい」とはっきり告げました。
1人で来ていたようなので、直ぐ帰国させるために空港まで送っただけです。しかも翊衛司もおりました…』

『翊衛司がおったからと言って、「女性から迫られた」では、宮は太子を守るために、この女生徒に罪を擦り付けたと言われかねない』

『では、一体どうしろと…』

『仕方がありません。時が来るまで、恋人宣言いたしましょう』

『なっ!!…僕にはチェギョンがいますっ!!』

『そのチェギョンを傷付けたのは太子ではないのか。この公務が終われば、発表するつもりでしたのに…』

『チェ…チェギョン…チェギョンは納得しているのですか?』

『納得?太子の不貞の写真が国中に晒されておるのにショックを受けないと思っておるのか?』

『じゃ、チェギョンは…』

『太子との婚姻は白紙にすると沙汰を出しました』

『えっ…』

『ですから太子は明日からこのミン・ヒョリン嬢と恋人です』


皇后様から一方的に告げられ、何より僕はチェギョンとの婚姻を白紙にされたショックで最後のヒョリンとの恋人と言うことは頭に入って来なかった


そして次の日登校した僕は従兄弟のユルからチェギョンが休学した事を聞いた。


**


【交際宣言から約1年後】


『きゃーっ、ツーショット。バッチリだわ。拡散しなきゃ』


チェギョンが休学してからの1年間、何もない学校に通う僕の近くには、宮が勝手に恋人宣言したミン・ヒョリンがいた。
〈ただそこにいただけ……なのだけど…〉
僕はこの1年、彼女と言葉を交わすこともなく、ただ皇后様の言い付け通りにしていただけ…

言い付け通りに従った理由…それは……

勝手に恋人宣言されたが納得できる筈もなく、何度も何度も皇后様に抗い続けた

『皇后様、やはり納得できません。なぜミン・ヒョリンと恋人を偽装しなければならないのか?今すぐ、撤回してください』

『太子、納得がいかずとも自らが仕出かした事ではないか…。しかし、太子物事をすべて悲観的にとってはいきません。全ては皇太后様がお決めになりましょう』

『皇太后様が……それは…どういう…?』

『太子も既に感じておるのではないか?』

『えっ?』

『太子をストーカー紛いに追いかけ騒ぎを起こしたにも関わらずお咎めは無い。しかも立場は太子の恋人である』

『それはあの騒動を鎮静化させるために…』

『そうですね。でもそれだけでしょうか…その内、二人の間に情が湧き…』

『ムッ…そんな事はあり得ません……』

『ホホホッ…すまない。太子、耐えるのです…』

『…つっ……では、チェギョン…チェギョンと話を…何処にいるか……声だけでも聞かせて下さい…』

『太子…今、あなたが成すべき事を考えなさい…』

『成すべき事……ミン・ヒョリンと恋人ごっこをしろとおっしゃるのですか?』

『嫌でしょうが、可能な限り…そうですね。太子…機が熟すのを待ちなさい』




〈機が熟す…〉

何が…かは、わからなかったが、そう話す皇后の様子から何かを感じた

それ以来、僕は肯定も否定もせず、ただ一方的世論の騒ぎを他人事のように傍観するだけだった…

もちろん演じるつもりもない

不思議な事に、ミン・ヒョリンもまた僕に親密な感じの立ち振舞いはしなくなっていた

あくまでも遠目からはカップルに見える距離感で…



そして、世間の騒ぎは別に、僕は高校を卒業しそのまま国内の大学に進学、彼女は海外に留学した