ナイフを手に持つファヨン。

『叔母上、なにをなさるおつもりですか?』

『太子殿、この娘は皇室に不幸をもたらす元凶
。皇室にいれてはなりません。』

『叔母上、彼女は先帝が皇室にと遺言してくださった宝玉です。そして、ユルや私が惹かれた大切な彼女(ひと)です。』

『なにを申すか。この娘の為にユルは死んだのだぞ。
ユルがいないのに、なぜこの娘は生きておるのだ。
この娘さえ居らねばユルもあの様なことにならずにすんだのだ。
太子もこの娘と一緒におれば、きっと不幸に見回れる。
フッ、もうみまわれておったな……。』

ファヨンはすでに正気の沙汰ではない様子ではあるが、それでもシンは続ける。


『私は彼女に出逢えてから、不幸になどあっておりません。
彼女といると皇太子としてではなく、イ・シンで居られるほどの安らぎを与えてくれます。
今もこうして彼女を助けられることが、私の彼女に対する自信になっております。
叔母上はご存知なかったのですか?
ユルが自らが傷付く覚悟で彼女を守ろうとした理由(わけ)を…………。』

『理由(わけ)とな……』


『はい、皇太后様にユルが彼女とのことを相談したときに教えられたそうです。
彼女が無事に18歳の誕生日を迎えられた時、彼女はその時の皇太子妃になれるということを。
だから、彼女を何としてでもユルは守りたかったのです。自分の妃とするために』


『だとしても、私からユルを奪い、私は全てを無くした。私はこの娘が憎い。
それほどまでに、ユルが大事にしていたのであれば、ユルの母としてこの娘をユルのもとに送ってあげようではないか。』



シンとファヨンの会話は、聞こえている全ての人々を凍りつかせる。

陛下はヘミョンに連絡をとり、すぐに下で待機している翊衛士たちに中に突入すべさせるよう命令を出す。

ヘミョンとコン内官はすぐさま体制を整える。


そして、シンはチェギョンの前に立ちふさがりファヨンと対峙する。

が、この光景はチェギョンにとってあの悪夢のようなあの時の光景がフラッシュバックして、ファヨンから吐き出されたファヨンの思いと相まって体はガタガタ震えだし、目虚ろになりただ立っているのがやっとの様子になった。




《ユル君のお母様……ユル君のいない悲しみにこれほどまでに苦しんでおられたの?私がいなければ…………。私は自分だけが、あんなに悲しくて苦しんでいると思っていた。私が生きている事で……私が苦しめているの。やはり、わたしは……》






『……ギョン、チェギョン』
シンがチェギョンの名を呼ぶ声が聞こえた。

チェギョンの尋常ではない様子に、シンも前にいるファヨンの動きを気にかけながらも、チェギョンの様子を見てたまらず声をかけた。


『チェギョン、チェギョンは何も悪くないんだ。僕もチェギョンを守るためならユルと同じようにするさ。
言っただろ。僕はチェギョンを守ると。』


『……ダ、ダメよ、シン君……。
私が人を好きになるときっと悲しませる人ができる。もうこれ以上不幸をもたらすのはイヤ。だから、わたしは、わたしは…………。』




…………ガタンッ…………

物音の先にチェギョンが見たものは……?》