ワンダフル | 一斗のブログ

一斗のブログ

2011年6月15日に小説を出版しました。
出版をするにあたっての様々なエピソードや心の葛藤、病気の事等書きました。今はショートショート(超短編小説)やエッセイ等を載せています。宜しくお願いします。

私立南陽小学校に通う白木遥は1年生のときから愛犬のクッキーと


いっしょに登校していた。


遥が2年生に進級する頃にはクッキーは学校中の人気者になっていた。


厳しくてみんなから恐れられている生活指導の先生でさえも遥とクッキーが


登校して来るとクッキーの頭をなでながら顔をゆるませるほどだった。


そして、幼い頃から可愛らしい顔立ちだった遥が6年生になったときには


少し大人の色気を感じさせるほどの美少女に成長し南陽小学校の


アイドル的な存在になった。


遥が南小のアイドル、クッキーは南小のマスコットともてはやされ


噂がどんどん広まり他の小学校や中学生までもが南陽小学校の校門前に


集まるようになった。


その中の誰かが遥とクッキーの写メを地元のテレビ局に投稿したらしく


テレビ局が登校風景の撮影と取材の許可をもらい、後日その映像が


テレビで放送された。


私立の学校としてはこの上ない宣伝になると大喜びで許可していた。


当然、遥の意思確認などしていない。


遥は今の自分の心境を誰にも話していない。


放送された翌日いつものように学校へ行こうと玄関のドアを開けた。


しかしクッキーは座ったままでついて来ようとしない。この6年間で


はじめてのことだった。


小学校にはじめて登校する日には遥が一人で玄関を出ようとしたとき


何も言ってないのについてきたクッキーが・・・


クッキーがついてきてくれないのなら、遥はとっさに学校ではなく


田舎で一人暮らしをしているおばあちゃんの家に行こうと思った。


すると急にクッキーが立ち上がって遥についてきた。


おばあちゃんの家までは歩いて12時間以上かかる。


遥は必死に歩き続けた。


そしてクッキーもそんな遥のあとを必死についてくる。


遥の心境を唯一理解しているのはクッキーなのかもしれない。


遥が大好きだった優しいおじいちゃんが亡くなった日に


まだ目も明いてない子犬が捨てられていたのを幼い遥は一生懸命


育てた。おじいちゃんが居なくなった心の隙間をうめるために・・・


そのときの子犬がクッキーだ。




しかし、かれこれ12時間以上歩いた筈なのにおばあちゃんの家に


たどり着けない。


遥は夜になって暗くなった所為で道に迷ってしまっていたのだ。


疲れ果てて歩くペースもおち不安で泣きながら歩く遥。


そして、ついに諦めて座りこもうとしたそのとき


今まで一度も遥の前を歩いたことのないクッキーが


はじめて遥の前を歩きだした。


それも遥のことを導くかのようにちらちらと振り返りながらゆっくりと


しかし迷いのない足どりで。


遥はクッキーをおばあちゃんの家に連れていったことはない。


しかしクッキーはまるで目的地をはっきりと知っているかの


ように歩く。


すると5分くらいで遥のおばあちゃんの家にたどり着くことが出来た。


「ありがとう・・・お・じ・い・ちゃ・ん??」


一瞬、遥の目にはクッキーとおじいちゃんが重なって見えたのだ!


おばあちゃんの家の玄関の前までいくと、めったに吠えないクッキーが


一度だけ「ワン!」と吠えた。


すると直ぐに玄関が開いて、おばあちゃんが笑顔で


「久しぶりだね~」


と言いながら遥とクッキーを家に招き入れた。


訪ねてきた訳など何ひとつ聞くこともないまま。





一斗