『ユダヤ人のブナの木』 | さすらい人の徒然日記

さすらい人の徒然日記

マイペースに更新中

ドロステ=ヒュルスホフの『ユダヤ人のブナの木』
(番匠谷英一・訳、岩波文庫)を読了。

19世紀前半を生きた女性作家、
ドロステ=ヒュルスホフの唯一の散文小説で、
「青シャツ隊」と呼ばれる盗伐団が暗躍する
ヴェストファーレン地方に起きた、
山林官とユダヤ人の殺人事件をめぐる物語。

この作品は、言うなればミステリー小説です。
しかしながら、普通の推理小説とは違い、
謎解きの要素は少ないです。
いやむしろ、謎の大半は、真相が明るみに出ることなく
結末を迎えていると言ってよいでしょう。
一応、「こいつが犯人だろう」と思わせる結末になってるものの、
それはあくまでも、状況証拠によって
そのような印象を受けるだけで、
「真相はひょっとしたら違うのかも…」と
読者に考え込ませる余地が充分にあります。

ドロステ=ヒュルスホフの文章は、
「女性作家」のイメージから連想されるような
繊細優美なものでは決してなく、
おそろしく冷静で、極めて写実的。
彼女が、もっと多くの散文小説を遺してくれていたならば、
と思わずにはいられません。