「死ぬか生きるかなら、生きる」を選んだ俺は、
いつものように、「放火殺人」のシュミレーションを頭に描きながら、
「あーでもない。こーでもない。」と考えながら歩いていた。
俺は家に入るために、ガレージから玄関までのドアを開けて、階段を登ろうとすると
愛犬ラブラドールレトリバーのモルダーがやって来て、嬉しそうに、俺にとびつき顔を舐めてきた。
「モルダー!!久しぶりやなあ!!元気にしてた??」
と、飛びついてきたモルダーを可愛がった。
俺は常日頃から、深夜に家の塀をよじ登って、自分の部屋に戻るという行為をしていたので、モルダーと会うのは久しぶりだった。
モルダー達の犬3匹は、1Fのリビング、ダイニング、廊下で走り回っているから
会うことなんかなかった。
「モルダー。俺は14歳になる前に、この家を燃やさないといけないんだ。
モルダー達は家なき子になってしまうよなぁ・・・」
モルダーは俺にじゃれついて離れない。
俺は、相変わらず変わらないモルダーに
「そういえば、俺に変わらず接してくれたのはモルダー達だけだったよなぁ・・・」
家を燃やしても、妹はどうにでもするとして、
モルダー達の命は守るつもりだけど、良い引き取り手に巡り合うかはわからない。
あの豚達でもモルダーにとっては、大事な飼い主だよなぁ。
そうして、フッと息を吐いて、笑った。
「俺が、俺の事情で家を燃やして、何も関係ないモルダー達が不幸になったらダメだよな。俺は、子供で何の関係もないのに、父の都合の離婚と再婚で、散々苦しめられてきたから、モルダーを同じ目に合わせるわけにはいかないなぁ」
「わかったよ。元気でな。ヨシヨシ!!!」
と、モルダーの頭を撫でてから、
俺は家に戻り、ショルダーバッグに3日分くらいの服を詰めて、
ガレージに置いてある父のベンツのタイヤを包丁でパンクさせた後、
「殺されなかっただけ、ありがたいと思えや。モルダーに感謝しろよ」
と、独り言を言った。
そして、家を出て歩いた。母に電話をした。
さよなら故郷。