つづきです
がんばらないと
置いて行かれる
がんばらないと
家族に入れてもらえない
がんばらないと
愛されない
わたしは
後回しにされる子
誰かのいちばんには
なれない子
だから
認められるために
勝たなくてはならない
兄には
負けられない
父が兄を優先した
あの日
わたしは
こころの中で
そう決めてしまった
そして
周りの人はみんな
ライバルになった
昨年
心屋塾に出会って
ワークをしていく中で
冷凍庫へ
閉じこもった日のことを
思い出した
記憶は700%ウソ
そんな言葉が
心屋塾にはある
この出来事に関する
わたしの記憶も
もしかしたら
真実と違っているのかも
しれない
そう思いながらも
もう30年以上も前の
出来事で
父の記憶も
あいまいだろうし
大した問題では
ないだろう
今さら蒸し返すのも
気が引ける
と
父との宿題を
ずっと見送っていた
けれど
先日あることに背中を押されて
ふと父に聞いてみた
お父さん
冷凍庫に入った時のこと
覚えてる?
父は
「覚えてるよ」
と言った
お父さん
お兄ちゃんを先に
連れて帰っちゃったよね
すると父は
わたしの知らなかった
当時のことを
話し始めた
夕飯の時間になっても
帰ってこないのを心配して
父は警察に
捜索願いを出した後
近所を探し始めた
4人同時に
いなくなったのだから
誘拐ではないだろう
きっと
どこかに閉じこもって
帰ってこれないでいるに
違いない
そう推測して
公園や小学校を
一通り探した後
自宅のすぐ前の工場へ行き
駐車場の車を
片っ端から開けて回った
開けなくては
中にいるかどうか
わからない
けれど
開けてもし
死んでいたらと
想像すると
とても怖かった
と父は話した
そして
辺りが暗くなってきて
車の中の様子が
よく見えなくなってきたので
家に懐中電灯を
取りに帰った
ふたたび工場の敷地へ
急いで向かうと
「見つかったー!」
という声が聞こえた
たまたま
配達の帰りに通りかかった
近所のそば屋のおじさんが
父が家に
懐中電灯を取りに帰っている間も
探していてくれて
わたしたちを
見つけてくれた
声の方へ行ってみると
そば屋のおじさんが
庫内から兄を
抱え出しているところだった
「この子
いちばん重症だから」
そう言って
おじさんは兄を父に渡した
兄の足は
突っ張ったままに
なっていて
立つのはもちろん
自分で曲げることも
できなかった
父は
兄を下に下ろすわけにも
いかず
そのまま
自転車の子供用の椅子に
乗せた
それを見たわたしが
「乗る!」
とせがんだから
歩けないわたしと
立てない兄を
ふたり同時に連れて帰ることは
できなくて
「待っていなさい」
と言い残し
急いで家に帰った
父は
重症の兄を
止むを得ず優先した
これが真実だった
父が話し終わった時
胸のつかえが
すーっとなくなるのを感じ
涙がポロポロこぼれた
愛されていないんじゃ
なかった
お兄ちゃんごめんね
生きててくれて
ありがとう
わたしは
わずかに開いた
扉の隙間近くにいたから
それほど体が
冷えなかった
けれど
おそらく奥にいたであろう
兄は
体が冷え切ってしまい
発見がもう少し遅ければ
四肢が壊死していたかもしれない
閉じ込められた時間を
2時間とした新聞社は
それ以上
閉じ込められていたら
生きているはずがないと
判断した
そして
わずか数センチの
隙間だったけれど
そのおかげで
外との空気の入れ替えが
できて
庫内の温度を
多少上げることができた
そのため
4時間くらいは
中にいたのではないか
というのが
他紙の見解だった
また
わたしたちを見つけてくれた
そば屋のおじさんは
以前から
冷凍庫付近で遊ぶ
子供を見かけていて
それは紛れもなく兄なんだけど
それならきっと
あそこに違いないと
他の車には
目もくれず
一番に冷凍庫の扉を
開けてくれた
もし
おじさんが
通りかからなかったら
見つけ出すのに
もっと時間が
かかったかもしれない
わたしたちは
たくさんの大人に
見守られていた
気になっていた
と言うと
父は
それは悪かったなぁ
と2回も謝った
これで
両親との間に
しこりはひとつも
なくなってしまった
もう
誰とも戦わなくていい
愛される人として
生きていい
だって
いつだってわたしは
両親からいちばんに
愛されていたのだから
愛されていたと
知ってしまったら
わたしの今までの
愛勝ち取り合戦の苦労が
ムダだったって
わかってしまうから
父になかなか
聞けなかったのかもしれない
勝手に拗ねていじけて
ひとりになって
たくさん注がれている
愛情を
受け取らなかっただけ
勝ち取りに
行かなくても
いつもすぐそばで
泉のように湧いていたんだ
もうお兄ちゃんと
張り合わなくていい
お兄ちゃんに
勝たなくていい
もう男の人と
張り合わなくていい
男の人に
愛されてもいい
これからも
ただただ愛されて生きます
だってわたし
かわいい愛され女だもん
出典:slodive.com