先日
ずっとやり残していた
父との宿題を
片付けた
わたしが
がんばり教になる
きっかけとなった
出来事のことを
父に聞くこと
今さら
蒸し返すようなことは
したくないし
大した問題では
ないだろう
わたしは今
毎日をとても幸せに
暮らせているから
放っといてもいいと
思っていた
それが
ほんとにふと思い立って
思い切って父に
覚えてる?
と聞いてみた
5歳の時
九死に一生を得る出来事を
経験した
6月のある日
兄と
近所に住んでいた友達2人と
公園で遊んでいたところ
兄が急に
近くの工場の敷地へ行こう
と言い出した
4人の中では
兄が一番年長だったので
何かおもしろいことが
あるかもしれない
とわくわくする気持ちで
兄の後ろを
みんなでついていった
工場には
明日にでも出荷されそうな
コンテナを積んだ車が
たくさん並んでいた
しばらくは
動いていない
ベルトコンベアの上を歩いて
遊んだりしていたけど
そのうち兄が
プレハブ状の冷凍庫の中に
入ったので
みんなで後に続いた
ひとりが外に残り
他3人が中に入って
扉を閉めて
キャーと怖がる
ということを
何回か繰り返した後
4人全員
冷凍庫の中に入った
そして扉を閉めた
すると
中からは開けることが
できず
4人は冷凍庫の中に
閉じ込められた
翌日の新聞報道では
庫内の温度は
摂氏2度
いったいどのくらいの間
中にいたのか
時間感覚がまだ定まっていない
子供にはわからず
新聞には
2時間とも4時間とも
書かれていた
「死」への認識は
なかったけど
家に帰れない
もう二度と
お父さんとお母さんに
会えないかもしれない
という
突然の事態に
真っ暗な庫内で
今までに感じたことのない
恐怖を感じ
4人で必死に
泣き叫び
6歳と5歳と4歳の力で
めいっぱい扉をたたき
足で蹴った
すると
扉は数センチの隙間が
開いて
のぞくと
外の様子が少しだけ
見えるようになった
けれど
その後どんなに
たたいても蹴っても
扉はびくともせず
日曜日の人気のない
駐車場が
隙間から見えるだけだった
そして
泣き疲れたわたしたちは
いつしかその場に座って
眠ってしまった
目が覚めると
扉が開いていて
わたしの顔をのぞきこむ
おじさんの顔が
暗闇に浮かんでいた
わたしたちは
閉じこもってから
数時間ののちに
夕飯になっても
帰ってこないことを心配した
親たちによって探し出され
無事保護された
暗闇に浮かんでいたのは
配達のために
たまたま通りかかって
一緒に探してくれた
近所のそば屋のおじさんで
そのおじさんに抱きかかえられて
外に出ると
自転車を引いて探していたであろう
父の姿があった
友達2人は
それぞれの親御さんが
家に連れて帰った
一方うちは
父ひとりに対して
兄とわたしのふたり
すると
兄が先に
自転車の子供用の椅子に
座ったのが見えた
「○○(わたし)も乗る!」
と言うと父は
「待っていなさい」
と強い口調でたしなめた
歩くのはもちろん
立っているのもままならない
わたしを置いて
父は兄を連れて
先に帰ってしまった
見かねたそば屋のおじさんが
着ていた白衣を着せてくれて
おぶって家まで
届けてくれた
というのが
わたしの記憶
つづく