じわじわと多勢が龍馬さんに襲い掛かる
龍馬さんは、懐からピストルを取り出し、郷士に向かって構える
いくら龍馬さんでも、いくらピストルでも、大勢が構えた刀には敵うはずがない
私はとっさに叫んでいた
『逃げてー!!』
その声に、ハッとした表情を見せたのは龍馬さんだった
「おまんが逃げろ」
いつもの優しい声ではない、低く、そして少し冷ややかな声が聞こえた
『いや!お願い、逃げて!!』
「聞こえなんだか!」
今度は鋭く、大きな声が静寂を破る
「翔太!○○を連れて行け!!」
その場に居合わせた翔太くんが、少し困惑しながらも小さく頷いて私の手を引く
けれど私は、てこでも動かなかった
諦めたように小さくため息をついた龍馬さんが、郷士たちに立ち向かう
パァンッ…
一発の銃声が響き、その音に驚いた郷士たちが何人か怯む
その隙に、刀に持ち替えた龍馬さんが斬りかかり…
翔太くんも加勢して、ダメージを与えたところで、
「○○、こっちじゃ!!」
灯りが消えた部屋の中、間違うことのない大きな温かい手が、私の手を掴む
そしてグンッと引っ張られ、窓から外に出る…
「わしと一緒におったら、今みたいに危険な目に遭わすことくらい想像できたが…」
近江屋から離れ、人気がなくなった辺りでようやくひと息ついた龍馬さんが、呼吸を整えながら言った
自分を責めるように目線を逸らす彼に向けた私の言葉は、揺るぎない決心だった
『私は龍馬さんにについて行くと決めたんです』
握り締めた手を開いたとき、この気持ちは変わらないと決心をしたんです…
「これから先も、今みたいな目に遭わすかもしれん」
『わかっています』
あなたの命がある限り、私はあなたの傍を離れません
『だって龍馬さん、言ってくれたじゃないですか
わしと一緒に、日本の夜明けを見るぜよ!って』
龍馬さんの口調を真似してそういうと、彼は大きな口を開けてははは、と笑い、
「そうじゃったな おまんの言うとおりじゃ
この国の夜明けを、一緒に見るぜよ!」
そう言って、私をひょいっと抱き上げる
『りょ…龍馬さんっ!』
「いいやか わしは今、おまんを抱きしめたくてたまらんのじゃ」
顔を真っ赤して背中を向ける翔太くんを気にしながらも、私もおずおずと彼の首に手を回した
曲がりくねった道の先にあったのは、彼を…互いを深く信じる気持ちの中に生まれた、闇の中を照らすような、一筋の信頼の光
今はまだ小さな光だけど、しっかり結んだ絆のように太く、そして周りをも照らすほどの明るい光になるように
私は、この人の傍に居続けよう
抱き上げられた私の目線は愛しい彼を見下ろす形となり、少し首を屈めて彼の頬に自分の頬をすり寄せた
―曲がりくねった道の先に~WINDING ROAD~【坂本龍馬】・完―
鳥エンド