あの人を想うとき…

いつも同じ風景が浮かぶ


咲き乱れる桜の下、ひとつに束ねた髪を風に揺らして

私に向かってそっと手を差し伸べてくれる


太陽の下の、花びらが眩しく輝く桜は、あの人をより明るく、より眩しい笑顔にし

夜の闇に浮かぶ桜色は、あの人の内に秘めた想いを静かに燃やすようだった



少年のように純真なあの人は、清らか、という言葉が誰よりも似合う人で

私の心をいつも透明な色に染めてくれる…




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久しぶりに、沖田さんからの逢状が届いた

なかなか私を呼ぶことができないと言っていたから、嬉しくて嬉しくて、早く夜にならないかと気を逸らせ、お座敷に向かう

そこには逢いたくてたまらなかった、愛しい愛しい彼…



夜の部屋に浮かぶ柔らかい灯りが、私と彼を照らす

ああ…今日もだ

彼に浮かぶ同じ風景

桜の下で微笑み、手を差し伸べる彼

闇の中、花篝りに照らされた彼が、あまりにも美しく、あまりにも清らかで、

そして、あまりにも儚くて…

その桜が咲き誇り、刹那に散る様が、まるで彼のようで

彼の運命を知る私は、その手を精一杯掴もうとする


『どこにも行かないでください…』

やっと握った彼の手を両手で包み、小さく呟く


―私をひとりにしないで―


『私があなたに逢いたいと思う気持ちを…

あなたを想う私の気持ちを、どうかわかってください』

零れそうな涙を堪え、言葉を紡ぐ

『私にはあなたしか…あなたしかいないんです』


言葉に詰まり、沈黙の彼

でも私の涙は堪えきれず零れる

瞬間―

彼の気配を近くに感じたかと思ったら、視界が突然暗くなった

『沖田…さん?』

そう、私は彼に抱きしめられていた

手を繋ぐこともしなかった彼の、初めての抱擁…

「…あなた以上です」

『え…?』

掠れそうな声が、耳元に響く

「私はあなた以上に、あなたに逢いたいと思っていて…

あなた以上に、私はあなたを強く強く思っています」

愛おしすぎて、大切すぎて…

迂闊にあなたに触れることもできずにいました


でも自分は、戦いに身を置く者

あなたを置いて戦場に立ち、主君のため、誠のために命を懸け、散っていくでしょう


―あなたのために、生きられない男です―


流れていた涙が一瞬止まり、やがてまた流れ出す

何の涙だろう

彼の本心がわかって、私のことを深く深く想ってくれていて

そして、自分の未来を知るこの人の覚悟を知って

嬉しいのか 寂しいのか

答えの出ない涙が流れ続ける


涙で滲んだ視界が、部屋の灯りをより幻想的にさせて、

その中に消えてしまいそうな彼を、今度は自分から抱きしめる

背中に手を回された彼が驚いた

「………!」

『わかっています』

だから、せめて今だけは、許される時間だけは、あなたの中を私だけにしてください

『わかっています…だからこそ…

ひとりにしないと言ってください』

優しい嘘をついてください…

その言葉で、私はあなたをもっと想って生きていけますから…


「あなたという人は…」

彼もそれ以上は言葉にならず、私を抱く腕に力を込める

お互いの体温を感じ、これが夢でないことを強く強く確かめて…

「あなたを、愛しています」

愛しています 愛しています…

打ち寄せる波のように繰り返される愛の言葉


華やかに咲き誇り、潔く散っていく桜のような彼

そんな彼を照らす花篝りのような灯りに包まれて、つかの間の幸せをかみしめた

明日という未来を、お互いが強く生きるために…




―花篝り【沖田総司】・完―



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これは、お友達で素敵絵師様のカヲリちゃんからリクエストを頂いていたものです

滴草由実さんというアーティストさんの、【花篝り】という歌

カヲリちゃんがとっても大好きな歌なんですが、これで話を書いて、と、私なんかに言ってくれたんです

実は今回初めて聴いた歌で、正直書けるか不安でなかなか手をつけられなかったんですが

今日はカヲリちゃんの誕生日なので、思い切って書き上げ、上げさせてもらいました


カヲリちゃんに旦那様のイメージを聞いたにも関わらず、沖田さんを指名してしまいました

ゴメンね(汗)

この理由は…そういうことです、カヲリちゃん!←わかるかな?

イメージを崩してなければいいんですが…

とにかくカヲリちゃん、お誕生日おめでとう!!!

素敵な1年を過ごしてね☆


花篝り/滴草由実