艶ママグル発行の冊子、9月号投稿分です


今回はなんとイラスト付き!!


お友達で素敵絵師様の、カヲリ@thomasさんとのコラボです♪


お題は【鈴虫】


よろしかったらご覧ください





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夜の雰囲気が変わってきた


闇を賑わす蛙の鳴き声はいつしか消え、代わりに秋の虫たちがその声を響かせるようになっていた


『もう…夏も終わりですね』


庭を臨む部屋に、鈴虫が優しく鳴く



リリィー…リリィー…



「知ってますやろか?」


杯のお酒をくいっと飲み干した彼が、私に問いかける


『何がですか?俊太郎さま』


空になった杯を置き、妖艶ながらも優しい微笑みを浮かべた彼が、こう続けた


「鈴虫が鳴くときは、雄が求愛しているときなんどす」


雌を、他のどの雄にも取られないよう、美しく、精一杯鳴いて、引き寄せる鈴虫…


「あんさんを他の誰にも渡さないよう、わても精一杯愛の言葉を囁きます」


そう言うと彼は、私をそっと引き寄せ、すっぽりと腕の中へ抱きしめた



「あんさんが愛おしい」


「ほんにかいらしい」


「誰にも渡しとうない」


「もうあんさんを離しまへん」


「愛しとるよ…」



甘い甘い言葉を、私の耳元で囁き続ける彼


それは鈴が鳴るように清らかに、そして消え入りそうながらも闇に響き、私の心に刻み込まれた


そして…



―わてと夫婦(めおと)になっておくれやす―



「ずっとずっと、わてのそばに居ておくれやす」


天女を空に帰したくなくなってしまった…


小さくそう囁いた彼が、私を抱きしめる腕に力を込める



思いもよらないプロポーズ


誰よりも美しく、甘い言葉を囁き、大きな愛で包んでくれる彼


私はただただ涙を流し、小さく、はい、と返事をして、彼の胸に顔を埋めた




・・・・・・・・・・・・・・・・・




永久(とわ)に一緒に居られると思っていた


だけど、彼とこの鈴虫の声を聴くことができたのは、この時が最後だった…



彼がいなくなって初めてのこの季節は、鈴虫の声を聞くのが身を裂かれるように辛く、耳を塞いで閉じこもっていた


ただ彼を想って泣くばかりで、鈴虫がどんなに美しく鳴いてもその声に耳を傾けなかった




そして何度目かの、夏から秋への移り変わり…


今年も鈴虫が声を響かせる季節がやってきた


彼との思い出が大きすぎて、幸せすぎて、“今”から目を背けてきた


でも…


耳に入ってきた鈴虫の声が、あの日の記憶を呼び覚ます


あの日と同じ、鈴のような鳴き声を闇に響かせる鈴虫


その声を聴き、彼が紡いでくれた甘い言葉と、かけがえのない優しい時間を思い出す



リリィー…リリィー…



―○○はん、愛しとるよ―



私は涙を流し、ただただ、はい、と頷く



『私も愛しています、俊太郎様…』



私の声に応えるように、鈴虫が清らかに鳴き続ける


途切れることなく、いつまでも、いつまでも…


花鳥風月



―愛する【古高俊太郎】・完―




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カヲリちゃんのステキなイラスト満載のブログ




CORKSCREW


で、こちらのイラストを楽しむことができます♪


ぜひご覧ください!!


カヲリちゃん、素敵なイラストをありがとう!


コラボできて楽しかったよ!


また是非コラボしてね♪