本日28日ということで


艶が~る主婦ぐるっぽ8月号に投稿させていただいたお話を、こちらにも上げさせていただきます♪


お題は【風鈴】


よろしければご覧ください



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蝉が忙しく鳴く



仕事が休みだった今日、私はいつものように屯所に来ていた


案内されたのは、土方さんの部屋


最近は隊士の方々も気を利かせてくれていて、何だか少しこそばゆい


「おう、来たか」


そっけない一言だけだけど、そういう目はとても優しく私を引き寄せる


はい、と一言だけ言って、縁側に近い畳に座っている土方さんの横に座る



『今日はなんだか穏やかですね』


屯所内には、稽古の声こそ響いているが、何か事が起きて出向かねばならない雰囲気は感じられない


「ああ、最近は少し落ち着いているようだ

それも今だけだろうがな」


そう、いつ何時、何が起きるかわからないこの時代、こんな穏やかな時間なんていつも約束できない


その貴重な瞬間に、大好きなこの人の隣りで過ごせることが、本当に幸せに思う



チリーン…



軒下に下がった風鈴が、そよ風にさらわれて透明な音を奏でる


その風は、開け放った襖から庭を臨む部屋に入り込み、私たちに優しく触れる


『いい風ですね』


「そうだな…」


そう言って目を細める彼の、目にかかりそうな前髪が風に揺れる


――心地よい沈黙…


風が草木を揺らす音と、風鈴の音色しか聞こえない


ただただ、風が成すいたずらに耳を傾けているだけの、緩やかな時間が流れる



ふと横を見ると、土方さんがほんの少し揺れている


『…?』


目を閉じ、コクリコクリと船を漕ぐ彼


『寝ちゃった…んですか?』


返事もなく揺れる彼に、思わず笑みがこぼれる


こんな彼の姿、きっと誰も見たことがないだろうな


その姿を私には許してくれてる…そう思うだけで胸がいっぱいになる



邪魔をしないよう、そっと部屋を出ようとしたとき、


「どこへ行く」


寝ていたと思っていた彼から声をかけられ、思わず飛び上がってしまう


『ひ、土方さん!起きてたんですか?』


「ああ、今気がついた 悪かったな」


少し恥ずかしそうな、バツが悪そうな表情で私を引き止める彼


その顔に負け、私は再び彼の横に腰を下ろす


『土方さん、少し横になられたらいかがですか?お疲れのようですし…

私も、ここに居ますから…』


図々しいと思いながらも、そんなことを言ってみる


すると、鋭い目を優しく細めた彼がニッと笑い、


「お前がいるなら、しばしそうするとしよう」


そういって素直に横になる様に、また胸がいっぱいになる


『は、はい!じゃあ枕を持ってきますね』


急いで枕を用意し、彼の頭にあてがう


彼は刀を自分の傍らに置き、枕に頭を委ね、目を閉じた




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あれから何度目かの夏を迎える


私は相変わらず彼の近くで過ごすことができている


変わったことといえば…それはたくさんありすぎるのだけど


一言で言えば、“時代が変わった”のだ



チリーン…



あの時と同じ音色を奏でる風鈴は、今日も軒下で風に遊ばれている


そしてあの日と同じように、座ったままうつらうつらする彼が、愛おしくてたまらない


『歳三さん?横になって休まれたらいかがですか?』


そう、私は彼を“歳三さん”と呼ぶようになっていた


ふっと目を開けた彼が、あのときと同じようにバツの悪そうな顔をする


『じゃあ枕を持ってきますね』


立ち上がろうとしたとき、ふいに袖を掴まれた


「枕はいらねぇよ」


『え?でもそのままでは…』


「それを貸せ」


指されたのは、私の膝だった


一瞬で真っ赤になる私を見て、くっくっと楽しそうに笑う彼


あたふたしている私をよそに、ぐいっと引き寄せ、座った私の膝に頭を置く


「このまましばらく…」


その言葉が消えると同時に、彼の安らかな寝息が聞こえ始めた


彼の傍らには、刀の代わりに、筆と発句帳



チリーン…



今日もこの風鈴は、変わらぬ音色を奏で、私たちに寄り添ってくれている




―夏の午後【土方歳三】・完―