すっかり遅くなってしまった


頼まれたお使いを終え、置屋に戻ろうとした頃には時刻もだいぶ回っていた



―逢魔時―



昼と夜の狭間のこの時間帯は、どことなく心細く、どことなく怖い


小走りに帰路を急いでいると…



ドンッ



すれ違いざまに人とぶつかってしまった


『あっ…すみません』


ぶつかった相手は、少しガラの悪そうな、浪士風の男だった


「いっ…てぇなぁ~ ここ怪我してた箇所なんだがな

また悪化したみたいだなぁ…」


完全に言いがかりと分かっていたけど、ここは素直に謝って、早く立ち去ってしまいたい


『あの…ご、ごめんなさい』


頭上からじろっと睨んだその男の他にも仲間らしき人がいて、あっという間に囲まれてしまう


「どうしてくれるんだよ?…ん?」


男達が舐めるように私を見る


「よく見たらこの女、上玉じゃねぇか

ちょっと俺たちの相手してくれたら許してやるよ」


腕を掴まれ、路地に引き込まれる


『いやっ…!誰か…!!』


口を塞がれ、叫び声は闇に消える


どうしよう…誰か…


誰か助けて…



その時、


ふっ


腕を掴む男の手の力が一瞬緩んだ


「そこで何をしている」


後ろに見えたのは、浅葱色の羽織を着た、愛しい愛しいあの人だった



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



巡察を終えて、屯所へ帰るところだった


数人の男が、何やら騒ぎを起こしているようだ


面倒だと思いながらも、確認のためそこへ向かう


その男たちの中から聞こえてきた声…


『いやっ…!誰か…!!』


その声を聞き、考えるよりも先にそこへ走り出していた



「そこで何をしている」


アイツを掴んでいる腕を掴み、捻り上げる


『土方さんっ…!』


目にいっぱい涙を溜めた○○が、俺の顔を見て少しだけ安堵の表情を見せる

掴んでいた男が、怪訝そうに俺を見る


「土方・・・?新撰組の土方か!?」


『いかにもそうだが』


「そうか…同胞がお前にやられてなぁ

仇があんだよ」


どうやら名乗る気もないらしい


所詮その程度の小者か


しかしその小者風情が、アイツに触れていることが許せない


「まずは…その手を離せ」


「なんだ?この娘、お前の女か

こりゃあ願ってもない…」


にやっと笑ったその男共は、○○を舐めるように上から下まで眺め、厭らしい手つきで体を触る


叫び声も上げられず、涙目で震える○○



―冷たい怒りが走る



「…もう一度言おう その手を離せ」



奴の手を再び強く捻り上げる



短い叫び声を上げた男がその手を一瞬緩めた隙に、○○は弾かれたように俺の方へ走ってきた



すばやく背中に庇う



「怪我はないか?」



『はい、大丈夫です』



気丈な受け答えだが、声も身体も震えていた



今すぐに抱きしめたい感情を抑え、男達に向き直る

「少しの間隠れてろ」


物陰に行くように促す


「目ぇつむってろよ」


奴らはすでに抜刀していた


そして3人一度にかかってくる


チッ、どこまでも小せぇ野郎共だ


鯉口を切り、対面する


こんな奴等の動きなど、普段近藤さんや総司を相手にしている俺には緩いものだ


間合いを詰め、攻めながらその機会を窺う



ポツッ



雲行き怪しかった空から、雨粒が落ちてきた


本降りになる前に片付けねぇと


そう思って相手をするも、雨足は一気に強さを増してきた



3人の攻めを交わし、そして攻めながらの攻防


降りかかった剣を受け止め、押し戻そうとしたとき、雨に濡れた地面に足元を取られた




―続く―