ぱたん…


お気に入りの本を読み終えてひとつ深いため息をつく


また物語の余韻に浸りながらふと時計を見ると、針が随分回っていた


一気に現実に引き戻される


『いけない!もうこんな時間…』


でも明日は仕事も休みだし、少しのんびりしようかとソファで大きく伸びをしたその時…


「やっぱりまだ起きていたのか」


背後から優しい声が降ってくる


『慶喜さん…まだ起きてたんですか?』


軽くあくびをした彼が、少しだけ涙目になった顔で私を見下ろす


「いや、少しうとうとしてたんだけど、目が覚めたらお前はいないし、リビングに明かりがついていたからね」


そういって、大きな手て頭をぽんぽんとしてくれる


私がたまらなく大好きな仕草だ


そして私の顔をじっと覗きこんだ彼が、少し目尻を下げた微笑みでこう続けた


「どうかしたのかい?」


彼に言われてはじめて気がついた


私は泣いていた


今読んだ物語に深く感情移入して、無意識のうちに涙が流れていたらしい


自分で頬を触って、自分で驚いてしまう


慌てて涙を拭おうと手を目元にやったとき…


私の手は静かに遮られ、代わりに彼の優しい指が、私の涙を拭ってくれていた


「どんな涙でも、お前の涙を拭うのは俺の役目だよ」



その仕草が嬉しくて


その言葉が嬉しくて


この人のことが愛しくて愛しくてたまらない



優しく涙を乾かしてくれた彼は、おもむろにキッチンに行き、なにやらカチャカチャと準備しはじめた


コーヒーが沸く音


コンロに火が付く音


手際よくそれらを済ませて戻ってきた彼は、私の手にひとつのカップを持たせた


カップの中は、ミルクたっぷりのカフェオレ


ほどよく温まったミルクがコーヒーに溶け合い、その琥珀色を柔らかくする


一口含むと、それがじわっと体中に染み渡っていくのがわかり、ほんのりコーヒーの香りを含むミルクの甘さに包まれる


『…すごくおいしい』


隣に座った彼が目を細めて、


「それはよかった」


と、穏やかに微笑む


「涙で乾いた分はそれで潤うかな」


そんな甘い言葉に、私の心はまた融けてしまいそうになる


彼の気持ちと笑顔だけで、もう十分潤されているというのに



素敵な本を読み終えた後の心地よい高揚感と、砂糖が入ってなくても甘い甘いカフェオレで、心は満たされる


でも、何より一番満たしてくれるのは、このカフェオレを作ってくれて、いつも私を優しく優しく包んでくれる彼なんだ



もう一度、私の頭をぽんぽんとしてくれ、そのまま肩に私の頭をもたれかけさせてくれる彼


私はそのまま自分を預け、寄り添って、静かな、優しい夜を過ごした






―midnight coffee break~徳川慶喜~・完―




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仲良くしてくださっている私の艶友さんたちは、慶喜さん推しの方が多いです( ´艸`)


なので、彼のお話を書くときはものすっごい緊張します(((( ;°Д°))))


それもあって、なかなか手を出せないでいた旦那様です(苦笑)


下手なこと書けないし(いや、もう下手なんだけど…)


イメージとか崩してないかとかね(汗)



でもね、やっぱり魅力的な男性ですもの♪


こんな時間を過ごしてみたいな~( ´艸`)