米国不動産のお話 ~10月29日(木)~ | The New York Blog

米国不動産のお話 ~10月29日(木)~


ミシガン州デトロイト。


ここで、税務当局に差し押さえられた物件が先日纏めて競売に掛けられた。その数なんと9000件。全ての物件の面積を合計すると、ニューヨークのセントラルパークと同じ大きさになるというのも驚きであるが、デトロイト市内の「空き地」を全て合計するとボストンと同じ大きさになると聞くと、いくら衰退が進む街とは言え、言葉を失ってしまう。


それでも驚かない不感症気味の人の為に言うと、この競売では最低入札価格を$500に設定したにも関わらず、4日間の競売を経てt売れた土地は、全部の1/5にも満たなかったということである。僕もあなたも土地持ちになれる大チャンスだったのである。


ここ数日迷走気味ではあるが、株式市場も油もリーマンショック直後の落ち込みに比べるとだいぶ息を吹き返し、最悪の危機は終わったと見る向きも多い。



本当だろうか。今日は久々にまじめに語りを入れたい。



今回の金融危機の原因については、改めて書くような新しい材料は何もないし、皆様も耳に蛸ができているだろうし、僕が世の経済学者より正しいことを言えるとも思わない。でも敢えて僕なりの理解を述べると次の通りである:



1.過剰流動性

イージーマネーが世の中を駆け巡り、どんな資産もインフレになったが、特に不動産インフレがその後の世界を変えてしまった。

俗にNINJA(no income, no job, no assets)ローンとも呼ばれるものであるが、誰しもが家を買える状態になり、続々と家が買われ、建てられた。中には不動産価格以上の貸付も行われ、家を建てるとお金がもらえる状態になった幸運(?)な人も。過剰流動性に煽られ、不動産価格もどんどん上昇した。

当然この状況は長続きしない。住宅の供給過多が発生し、住宅価格が下がり出すと今度はローンデフォルトが続々と発生してした。これだけならば典型的なバブル崩壊の話で終わりなのだが、これらのローンがご存知CDOやCLOとして証券化されていたことが話を極めて複雑にする。

不動産価格が下落し、ローンデフォルトが発生し出した時、証券化したローンを売れずにまだ大量に抱え込んでいた金融機関が多数あり、証券化された債権も損を大量に出し、金融機関は多額の損失を計上する。そればかりか、より深刻なのはこの事態によりこのクレジットフリーズ(日本流に言えば「貸し渋り」)に繋がったこと。市場の流動性は「過剰」から「過小」へと一気に進んだ。


2. 支出の落ち込み

1.の通り既にレールは敷かれていたので、1.と2,を完全に切り離すのは難しいが、1をきっかけとして次に起きた大きな事件は所謂「リーマンショック」。

別にリーマンブラザーズがどうのこうの、という話ではないのであまり使いたくない言葉なのであるが、、要はリーマンが破綻した前後の期間に突然発生した、あらゆる資産価格の暴落である。これがあまりにも急且つ激しかった為に、損失は更に拡大し、流動性は更にタイトになり、更に資産価格は暴落するという悪循環に陥った。資産価格が下落するだけ、或いは貸し出しが縮小するだけならまだ良いのだが、致命的なダメージとなったのは企業も消費者も支出に急ブレーキをかけたこと。これが更に景気の回復を遅延させることになる。



オバマ政権は大変である。先ず経済に対する流動性を戻す為にお金をたくさん印刷しながら、金融機関に資金注入をしながら、同時に景気を刺激する為の多額の政府支出も行い、且つインフレも避けようとしているのだから、やらんとしていることは神業である。その努力も一定の効果は見せつつあるようであり、なんとなく経済もマーケットも「底を打った」的な見方が多い気する。


しかし、僕はまだ二番底もある気がしている。


何故か。


そもそもマネーの流動性が戻らないと、経済活動は復活しない。物を買うにも、設備投資をするにも、物を作るにも、在庫を作るにも、お金が必要なのだ。そもそも昔から内部留保が潤沢ならばそれでも現金買いできるのであろうが、アメリカの企業も個人も、過去の借金が多額で、現金買いできる人などほとんどいない。


流動性が戻るには、まずは銀行の財務内容が健全になる必要がある。報道を見ていると「サブプライム」問題は略沈静化したようなイメージもあって、それは正しい。しかし、実は住宅ローンの中でサブプライムは氷山の一角に過ぎない。


サブプライムローンは確かに震源地として世界的に有名になった。しかし、その規模は約1兆ドル程度であるr。サブプライムローンの波は今、ようやく金融システムの中で消化されつつある。しかし、サブプライム以外にも住宅ローンはあり、Alt-Aローンという、サブプライムの次にリスキーな客層を対象にしたローンが更に約1兆ドル、そしてサブプライムよりも更にリスキーなOption ARM (日本で言う「ゆとり返済ローン」)と呼ばれる種類のローンが6000億ドル、それぞれ来年から再来年にかけて一気に金融システムを襲うと見られている。僕は住宅ローンについては素人であるが、僕が知っている範囲では以下のような理解をしている。


サブプライムローンも、Alt-Aローンも、信用の低い顧客向け貸し出し(つまりノン・プライム)という点では共通している。また、どちらの不動産ローンも、現状ではほとんど水面下(=ローン金額を物件価格が下回ってしまっている)という点でも共通している。しかし一方で、決定的な違いもある。


サブプライムローンは、主に居住用の家を買うための、所謂一次取得者向けのローンである。ところがAlt Aローンの多くは、非居住物件(2nd house、乃至投資用物件)、つまり二次取得者のローンなのである。投資用物件の値下がりについては言及する間でもないだろうが、加えて非居住物件へのローンは、コスト割れした時にオーナーはいとも簡単に物件を放棄してしまう可能性が高い、という問題を抱えて散る。サブプライム問題の時には家と泣き別れをする家族が問題になったが、Alt-Aは全く違う様相である。そしてこれらAlt-Aローンは、最初の数年間は導入期間として低金利が適用されるものの、2010年から2012年にかけてローン金利が続々と契約に基づいて改定(リセット)されることに伴って、デフォルトも今後大量に発生するものと見られている。この規模はサブプライムローンと同額程度の一兆ドルか、若しくは二兆ドルとも言われている。


更にOption ARMというローンの問題がある。これはサブプライム層よりも更にリスキーな顧客を対象にしたローンである。


サブプライムローンは、クレジット歴が十分でない、或いは多少悪くてローンを借りられない顧客を対象に、ローンを借りさせて、数年間はきちんと返済し、クレジット歴を作らせた上で数年後にリファイナンスさせることを考えて考案された、というか考えられたローンである(良いアイデアか悪いアイデアかは別として)。


しかしOption ARMの客層は、Subprimeのローンを借りることもできない(つまり数年程度のクレジット歴を

作ってもどうにもならない)客層を対象に、「物件の価値が今後上がり、上がった時点でリファイナンスすることを前提」にしたローンである。当初数年間は1%から3%程度の極めて低い金利オンリーのローンであるが、このOption ARMローンは、Alt-A同様、金利のリセットと共に2010年以降に大量にデフォルトが発生することが確実視されている。一つの見方によれば、Option ARMについては50%-70%のローンがデフォルトすると見られているが、このOption ARMは大体6000億ドル前後あるといわれている。



話を纏めると、合計1.5兆ドル以上の第二サブプライム問題とも呼べようものが来年以降米金融界を直撃する様相である。



で、以上はあくまで「住宅」ローンの話。「商業用不動産」ローンの話はまだしてもいない。



これから3年間の間に、2兆ドルを超えると言われる商業不動産ローンが満期を迎える。


満期を迎える、ということはローンバランスを返済しなければいけないのだが、住宅ローンの世界では社会的使命感もあって政府系金融機関がまだ頑張っている状況と違い、商業用不動産ローンは殆ど貸し手がいない。

多くの商業銀行が現在不動産向け融資から手を引いており、特に保証なし(ノンリコース)のローンの出し手はアメリカ版住宅金融公庫とも言うべきFannie MaeやFreddie Macに限られ、それに一部の保険会社が自己勘定で高利貸付を行っているに過ぎない。こんな状況にも関わらず、これから2兆ドルものローンが満期を向かえ、借り換えが必要となるのである。この2兆ドルのうち、8000億ドルはCMBSとして証券化されているが、それ以外はローン保有者の懐に直接穴を開けることになろう。


しかも住宅ローン同様、商業用不動産も落ち込みが激しい。商業不動産全体で見ると、現時点で2007年10月のピークと比べて実に41%も価格が下落している状況である。個別に見ると、全米のオフィス空室率は5年ぶりの高水準、小売スペースの空室率は27年ぶり、アパートの空室率も23年ぶりの高水準にある。


空室が多ければ、テナントからの収入が減る。ローンの支払い能力も低下する。収入が減れば、物件価値も減る。住宅ローン同様、商業用不動産も多くの物件がローン金額以下の価値しかない。それに加えて不動産金融市場も極端に冷え込み、貸し手もいない状況である。これから3年の間に満期が到来する商業不動産ローン1.5兆ドルの顛末は要注視すべき所以である。



ここまでで、1兆ドルのサブプライム、これから来る合計1.6兆ドルのAlt-AとOption ARMローン、それから2兆ドルの商業不動産ローンについて述べたが、金融機関側の備えはどうだろうか。


今年夏にIMFが行った調査によれば、2007年第二四半期から2009年第二四半期までの二年間に米国の銀行がwrite down、若しくは引当てをした金額は6000億ドルである。これは勿論不動産ローンに限らず、あらゆる種類のローンを含むものであるから、れから来ると見られる不動産ローンデフォルトの波にまで十分対応できるものではないと言えよう(勿論米国不動産リスクを持っているのは米銀だけではなく、他の金融機関や他国の銀行も入っているわけなので、緻密に計算をした訳ではないが)。


現在の不動産市場が冷え込んでいるこをは是としても、今後の見通しはどうだろうか。残念ながら僕は暗い見通しを持っている。


まず、商業不動産。バブルの過程で基本的にハイレバレッジ(高いLTV=Loan To Value)の物件が多く、2010年以降にローン満期を迎える案件の多くで、今度は銀行が掛けるローレバレッジの制限から新規エクィティの拠出を余儀なくされる物件が頻出すると思われる。

しかし、こんな世の中では余程バランスシートが強いか、かなり長期の戦略的ビジョンを持てる企業体でない限り新規エクィティの供出は難しい。その為、2010年以降は物件の破綻、差し押さえ等による大量のオーナーシップチェンジが行われると踏んでいる。その為商業不動産の底はまだ先であり、且つ不動産金融市場自体に流動性が戻ってこない限りは物件の流通もまなならないので、回復は当分先と見ている。


一方、住宅不動産については、新規住宅着工件数は、2005年ピークの2百万戸から2009年現在は50万戸と、実に75%の落ち込みを見せている。ローンデフォルトによる差し押さえは、2009年だけで350万戸があり、これが市場に競売物件などとして戻ってくるわけであるが、一方2009年の中古住宅販売は2006年と比べて30%ダウンの460万戸とかなり低調である。


住宅不動産は商業不動産と異なり、融資がまだ行われているという点が大きな違いではあるが、レンダーによる差し押さえの勢いが鈍らない限りは住宅着工件数はなかなか伸びにくい。。歴史的に見るとアメリカの新規住宅着工件数は130万戸前後が適正と言われているが、そこまで這い上がる為には現在の水準から150%も上がらないといけない。2005年の200百万戸水準には恐らく半永久的に届かないであろう。先ずは差し押さえのペース、それから失業率の動向を見ることがポイントであるが、両方とも暫く改善の徴しは見せないであろう。



ということで、不動産に限っては向こう最低数年は見通しが暗そうである。


と、ここまで読んでお気づきかもしれない。2009年は実は多くの金融機関にとって谷間の年になったと思われるのである。サブプライムやら資産価格の下落で苦しんだ2008年、第二サブプライムと商業不動産の波が来るであろう2010年の間の年なのである。


それを分かってか、2009年は業績の急回復を発表し、経営の安定を印象づけようとしている企業が多い印象を受ける、不動産ローンでもコーポレートローンでも、可能な限りは損を先送りして今年は利益を多く出す年にする、というような、そんな印象を受けないでもない。


それは2010年がひどくなることを見越しての確信犯ではないか、と言ったら穿った見方だろうか。


勿論、こうした不動産ローンの損失問題があるにしても、60兆ドルと言われたCDS市場の破綻が取沙汰された時と比べるとはるかに金がk儒は小さいので、金融危機がまた発生するとは思っていない。MBS(不動産ローン担保債権)のスプレッド(=リスクプレミアム)もまだリーマンショック前のレベルには到底戻っていないが、それでも以前と比べるとずいぶん落ち着いてきたような印象も受ける。


恐らく敵は過剰な楽観主義。少なくともアメリカの不動産に限って言えば状況は尚深刻で、野球で言えばまだ3回表裏の攻防が終わった位の段階であろうか。セブンスイニングストレッチまではまだまだ遠い。